ブログ 町の法律日記

令和の改正相続法(配偶者居住権編)

配偶者居住権って?

今回は、原則的に令和元年7月1日に施行された
改正相続法のうち、配偶者居住権の規定について、
ざっくりと述べます。

配偶者居住権は、上記改正相続法によって創設された権利であり、
なんだか当たり前に存在していそうな権利でありながら
従前は存在しなかった権利でした。

どんな権利か?というと、
被相続人の配偶者が、
被相続人の財産(遺産)である建物に、
その相続開始時において居住していた場合、
遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判、
遺贈又は死因贈与によって成立するもので、
上記建物に配偶者が居住し続けていける権利です。

成立すると、配偶者は
居住建物を無償で使用収益することができ、
そこに居住することはもちろん、
一部のスペースを事業のために
使用することも可能となります。

但し、無償で使用収益できる訳ですから、
建物の修繕・維持管理費用は
配偶者が負担することになります。

補足としては、当たり前のことですが、
当該建物を使用収益するうえで必要な限りにおいて、
敷地の利用も可能となります。
そうじゃないと、建物から外に出られませんから、ね・・・。

なお、配偶者居住権を第三者に主張するためには、
不動産登記をする必要があります。

・・・と、ここまで来て、
「ふ~む・・・。改正前までは、
例えば夫が居宅を所有していた状態で死亡して、
その居宅を子が相続したら、
妻は住めなくなってしまったってこと?
そんなことってあるの?」
と思った方もいらっしゃるかもしれませんね。

これが法的にはあり得る話であって、
実際に仲が悪い親子間では
稀に子(相続した人)が親を追い出す
訴訟(建物明渡請求)が発生したりしました。

それを避けるためには、
残された配偶者が当該建物を相続(所有権を取得)するか、
建物の所有者となった他の相続人(例えば子)との間で
賃貸借契約や使用貸借契約を締結する等しなければなりませんでした。

子が建物を相続した場合、
その子が残された配偶者(親)を追い出さないのは、
その子の良心にかかっていた、とも言えます。

そんな不安定な状態に配偶者が置かれると分かっていても、
不動産を配偶者でなく子が相続する、というケースは
珍しくなかった訳ですが、
その原因の一つが不動産登記(相続登記)だった、
と言えなくもありません。

配偶者が相続した場合、
その配偶者が死亡したらその子が相続する訳で、
不動産登記的には
まず配偶者へ所有権を移転する相続登記をして、
その後にまた子へ所有権を移転する相続登記を経由する、
ということで2回相続登記をする必要がある一方で、
子が相続した場合は
子へ所有権を移転する相続登記を経由する、
つまり1回の相続登記で済むからです。

経済的効率性を追求し、
遺産分割の方法(選択肢)を増やし、
配偶者の「安心・安定」に配慮する。

配偶者居住権は、
そういうものだと言えます。

成立要件をもう少し詳しく

配偶者居住権が成立する要件は
先述のとおりですが、
もう少しだけ詳しくみていきましょう。

まず、「被相続人の配偶者」について。

「配偶者」には、
法律上の婚姻関係にあった者である必要があります。
つまり、事実婚関係にあった者は含まれませんので
注意が必要です。

次に、「被相続人の財産(遺産)である建物」について。

これは、相続開始時において
被相続人が所有していた建物ということになりますが、
例えば当該建物が被相続人と配偶者でない者との共有状態にある場合、
なんと配偶者居住権は成立しません。

なお、「建物」に被相続人が居住していたかは不問であり、
登記記録上、当該建物の種類が「居宅」である必要もありません。

次に、「その相続開始時において(配偶者が)居住していた場合」について。

これは、被相続人が亡くなったその時に
配偶者が現に当該建物に居住していなければならない!
・・・という訳ではありません。
そうじゃなければならないとすると、
成立しない案件がめちゃくちゃ多くなります。

一つの大きな目安としては、
当該配偶者の住所地が
当該建物の所在地であること、と言えますが、
住所地と一致していなくても、
例えば被相続人が所有していた建物が何棟もあり、
その建物間を配偶者が定期的に移り住んでいた場合、
つまり生活拠点が1か所にとどまらない場合は、
そのいずれの建物にも配偶者居住権が成立し得ます。

最後に、「遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判、
遺贈又は死因贈与によって成立」について。

遺産分割や遺贈については前のコラムでも
触れた気がしますので、死因贈与の説明のみします。

死因贈与とは、
贈与者が死亡することを停止条件(開始条件と解していただいてOK)として、
受贈者(贈与を受ける方)に物を贈与する意思表示をし、
受贈者が承諾することにより成立する法律行為をいいます。

配偶者居住権の存続期間

配偶者が、住み慣れた「我が家」で
安心して、安定した生活を送れなければ意味がないため、
配偶者居住権の存続期間は、
原則として相続開始時から配偶者の終身の間となります。

但し、遺産分割等において別段の定め、
例えば10年間とか20年間といった
期間を定めることもできます。

一方で、上記のように定めた存続期間は、
更新・伸長することができません(短縮・消滅は可能)ので、
具体的な期間を定める場合は
よく考えて決める必要があります。

ちなみに、配偶者の生存中に
存続期間が満了した場合は、
改めて賃貸借契約や使用貸借契約を結んで
居住し続けるか、
原状回復をしたうえで
建物を所有者に返還しなければなりません。

遺産分割で配偶者居住権を活用

遺産分割をする際に、
各相続人が各法定相続分相当の財産を相続しよう、
と考えた場合、この配偶者居住権をどのように評価すべきか。

これを語りだすと、非常に長くなってしまうので割愛しますが、
少なくとも当該不動産の所有権を上回る程の価値はありません。

ここで、少しイメージしやすいように
一例を挙げてみましょう。

被相続人(父)が死亡して相続が開始。
相続人は、母(法定相続分2分の1)、
子1人(同2分の1)というシンプルなケースです。

相続財産は、
評価額1000万円の土地・建物(一軒家の自宅)と、
預貯金債権1000万円。
なお、上記不動産の配偶者居住権の評価額が
400万円だったとします。

従前の相続関係法令を適用すると、
法定相続分どおりで相続する場合、
例えば預貯金債権1000万円を母が、
不動産1000万円を子が相続する内容で
遺産分割協議をする、ということが考えられます。

この場合の懸念は、先述のとおり、
母に居住権が無い、ということです。

逆に、預貯金債権を子が相続し、
母が不動産を相続すると、
先述のとおり不動産(相続)登記を
2回しなければならない必要性がある他、
母は今後の生活費に窮することになるかもしれません。

そんな時に、今回の改正法で登場した
配偶者居住権が役に立つ・・・と言えます。

母が配偶者居住権400万円分と預貯金債権600万円分を相続し、
子が不動産の所有権600万円分と預貯金債権400万円分を相続する。

こうすれば、母は安心して居住することも、
老後の資金に困る心配も減る・・・かもしれません。

実際には個別具体的に評価額が算定されるため、
これほど単純なものにはなりませんが、
何となく、配偶者居住権のメリットを感じていただけたなら
幸いです。

配偶者短期居住権について(おまけ)

ここまで、配偶者居住権について
ざっくり説明してきましたが、
本稿の最後に、「配偶者短期居住権」
というものについて触れておきます。

これは、例えば建物の所有権者が死亡して
相続が開始した場合において、
配偶者(相続人)が当該建物で生活しているにもかかわらず、
被相続人が相続人でない第三者に
当該建物を遺贈する旨の遺言をしていたとします。

この場合、当該建物の所有権は
上記第三者に直ちに帰属しますので、
配偶者としては非常に困ってしまいます。

そこで、相続開始時から遺産分割が成立するまでの間と
相続開始時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、
上記被相続人の意思にかかわらず、
配偶者が無償で当該建物に居住できる権利が保障されました。

これが、配偶者短期居住権です。

さて、今回をもって、
一応、令和の改正相続法についてのお話を終わります。

次回からは、「100年に一度の大改正」と言われた
民法の債権法規についてを主に取り上げていきます。

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