ブログ 町の法律日記

10年が5年に!?(時効前編)

時効はいつ完成するのか?

今回は、令和2年4月1日から施行された改正民法のうち、
「時効」について述べていきます。

時効関連の規定は、
この改正によってかなり変わりましたので、
語り甲斐があるというものです。

ややボリュームがあるもんですから、
今回と次回の2回に分けて
紹介することとします。

よく、「あれはもう時効だよ」とか、
耳にする機会が多い「時効」。
しかし、時効というものは、
時間が経てば自動的に成立(完成)するものではありません。

例えば、私が知人に
「今日から1年後に返してね」と言って
10万円を貸し渡した場合。

1年後、私は
知人に対して「10万円返して」と
請求できるのですが、この請求できる権利を
貸金返還請求権と言います。

請求権は、債権です。
で、債権は、
改正前は10年間行使しないと消滅する(消滅時効)、
と規定されていました。

これが、
「債権者が権利を行使することができることを知った時から
5年間行使しない」と消滅する、と改正され、
「権利を行使することができる時から
10年間行使しない」場合にも消滅する、となりました。

ん?結局10年・・・?
と思われるかもしれませんが、そういう訳でもありません。
私は知人にお金を貸した時に、
「1年後」と言っているのですから、
1年経ったら「権利を行使することができることを知った」ことになるので、
そこから5年経ったら時効になります。

要するに、世の中に無数にある債権の大部分が
5年で時効になる、と考えていいでしょう。

でも、うっかり者の私が、
お金を返してもらう日(貸した日の1年後)から5年以上、
債権を行使せずに放置してしまったとして、ですよ。
「はっ!!」と思い出して、知人に
「あの時の10万円を返してくれる?」と言ったらですよ。
知人が「ああ、あれね。悪い悪い、返すよ。ほら」と
10万円返してくれちゃった場合・・・。

私の債権は「消滅」しているのですから、
返してもらう権利もないのに10万円を受け取った・・・
つまり10万円を受け取る根拠が無い!ということで
知人に10万円を返さなきゃいけないのか!?
・・・と思う人もいるでしょう(いるかな?)

心配いりません。
私は10万円をちゃんと受け取ることができます。
例え、私の10万円の債権が時効にかかっていたとしても、
知人に返す気があるのならば、
その知人の気持ちを尊重する必要があるのです(ありがとう)。

つまり時効は、
定められた時間が経ったらパッと消えるのでなく、
債務者(その他、保証人等権利の消滅について正当な利益を有する者)が
時効を援用しないと完成しないものなのです。

裁判手続で時効の完成が猶予される

このように、時効は、定められた期間の経過と
援用によって完成する訳ですが、
上記期間が経過する前に、
裁判上の請求、支払督促、調停、
訴え提起前の和解申立て(和解が成立しなかった場合、当事者双方の申立てにより通常訴訟の弁論に移行する。
移行したら、和解の申立てをした時に訴えが提起されたものと看做されるもの)等をした場合は、
その事由が終了するまでの間、時効は完成しません。

例えば、私が知人に「お金を返してもらう日」に返してもらえず、
そこから4年10か月が経過してしまった、と。
私が知人に「お金を返して」と言ったところ、
知人が「お金なんか借りたっけ?もらったんじゃなくて??」
と、お金を借りたことを忘れてしまっている場合、
「何言ってんだよ。貸したじゃないか」等と、もたくたしているうちに
5年が経過してしまう可能性がある訳です。

こうなると、貸した側としては、
「とりあえず時効の進行を止めたい!」と思うでしょう。
そんな場合に、もちろん5年経過前に、
「おりゃ!」と
管轄裁判所に知人を被告として提訴等をすれば、
当該貸金返還請求事件(民事事件)が終了するまでは
時効が完成しない。
即ち、当該貸金返還請求事件の係属中に5年を経過したとしても、
時効は完成しない、ということになります(時効の完成猶予)。

そして、今回の例で言えば、
私の勝訴が確定した時から、
新たに時効の進行が始まるのです(時効の更新)。

ちなみに、上記と同じような規定が、
強制執行等や仮差押え等についてもありますが、
仮差押え等(具体的には仮差押えと仮処分)の場合、
時効の完成猶予が、
仮差押え等が終了した時から6か月を経過するまでの間に
限定されています。

なお、補足として、裁判上の請求等と強制執行等については、
時効期間の満了時に天災その他避けることができない事変によって
手続を行えない場合には、それによる障害が消滅した時から
3か月を経過するまでは時効が完成しません。

裁判外でも完成が猶予される?

それにしても、時効の完成を阻むために
裁判手続をしなきゃいけないっていうのは、
ちょっと・・・と躊躇う人が多いと思います。

私だってそうです。
知人を訴えたりなんてしたくありません。

そんな場合には、裁判手続によらずに
時効の完成が猶予される方法を検討することになります。

まず検討するのが、「催告による完成猶予」です。

これは、「お金を返してもらう日」になっても
返してくれない知人に対して、
私が「お金を返しなさい」と請求する(催告する)ことで、
催告時から6か月を経過するまでの間、
時効が完成しない、というものです。

催告の方法は、口頭でもいいのですが、
催告した事実を証明するものがなければ、
実際に時効の完成猶予がなされたのか否かが分かりません。
従って、通常は、いつ催告したのかを明らかにするために、
配達証明付の内容証明郵便をもって催告することになります。

私としては、一縷の望みに賭けて、いや、知人の良心に賭けて、
催告後6か月が経過するまで待つ・・・というのでもいいのですが、
やっぱり時効になったら困るので、完成猶予期間中に
「もしも」の時に備えて提訴等の準備をすることになります。

なお、催告によって時効の完成が猶予されている間に、
「もう一回催告をして、再び6か月の完成猶予を・・・」
と考えても、それはできません。
再催告は無効ですので、悪しからず。

実務上、催告だけで返済に応じてくれることもありますが、
結局返済してくれないケースも多いため、
催告はあくまで提訴等までの時間稼ぎであることが
少なくないのであります。

んじゃ、もう少し実効性のある手段はないのか?
ということで、利用を前向きに検討するのが、
「協議を行う旨の合意による完成猶予」です。

これは、例えば私と知人が、10万円の返済について
協議を行う旨の合意書面(電磁的記録を含む。以下同)を交わした場合、
(1)上記合意から1年経過時
(2)上記合意において当事者が協議を行う期間(1年未満に限る。)を
定めたときは、その期間の経過時
(3)当事者の一方が相手方に協議の続行を拒絶する意思表示を
書面で通知したときは、その通知時から6か月経過時
上記(1)から(3)のいずれか早い時までの間、
時効の完成が猶予される、というものです。

さらに、催告と異なり、再協議が認められています。
上記の協議中に、専ら時効の完成猶予期限が迫ってきた等の事情により、
再度協議を行う旨の合意書面を交わせば、再び時効の完成は猶予されます。
もう1回、もう1回・・・と協議を繰り返すことにより、
時効の完成をずるずると先延ばしにできるのです。

但し、「協議を行う旨の合意による完成猶予」を利用しなかったならば
時効が完成した筈の時から通算5年を超えない範囲内で、ですが。

再度の協議による時効の完成猶予にも限度がある訳ですが、
催告だと裁判手続に向けての時間稼ぎにしかならない場合が多いこと、
裁判手続を選択すると私と知人との関係は崩壊するであろうことを考えると、
「協議を行う旨の合意による完成猶予」は建設的であり、
利用する価値が高い選択肢と言えましょう。

なお、この「協議を行う旨の合意による完成猶予」と
「催告による完成猶予」は、両立しません。
つまり、協議による完成猶予期間中に催告をしても、
催告による6か月の完成猶予は成立しませんし、
催告による6か月の完成猶予中に協議による完成猶予を・・・
と思っても、やはり効力を生じません。

「協議を行う旨の合意による完成猶予」と
「催告による完成猶予」は、
いずれかを選択しなければならない、
ということです。

時効が更新される!?

ここまで、時効がいつ完成するのか、
その時効の完成が猶予されるのは
どのような場合かについて述べてきましたが、
時効は「更新される」こともあります。

先程、裁判手続の例で
「私の勝訴が確定した時から、新たに時効の進行が始まる」と
述べましたが、それがまさに「時効の更新」であり、
一度ある程度進行していた時間をリセットし、
また一から時効期間がスタートする、というものです。

この時効の更新は、旧法では「時効の中断」と言いましたが、
内容は同じです。
そして、最も代表的な時効の更新事由が、
「権利の承認」です。

権利の承認とは、今回の例では、
知人が、私に対して10万円の債務を
確かに負っていると認めることを言います。

知人が権利の承認をすれば、
その時から、新たに
めくるめく時効物語が紡がれていくのです。

今回は、このへんで。

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