ブログ 町の法律日記

本人のための代理じゃなかったら

代理権の濫用

前回、「勝手に『代理人』を名乗ったら」と題して
無権代理について綴りましたが、
その流れを受けて
無権代理の第2弾といきましょう。

令和2年4月1日から施行された
改正民法の新設規定である
第107条「代理権の濫用」についてです。

前々回の心裡留保のコラムで挙げた例を少しいじった
以下のようなケースが
「代理権の濫用」の一例になります。

例えばこんな場合

故あって、またまた夫婦喧嘩をしてしまった
私とワイフ。
お互いリコンについて協議するようになり、
財産分与の一環として、
私が、所有する自動車を換金しちゃおう、という話になり、
ワイフに対して「この自動車を売っておいて」と委任し、
代理権を与えたとします。

今回のワイフは、私の真意に基づき、
しっかりと「私の自動車を売却する」ことを目的とした
「代理権」を授与された「代理人」であります。

ワイフは、自動車買取店の従業員に対して、
私の代理人として当該自動車を売り、
50万円を受領しました。

が・・・。

ワイフは上記50万円を着服して
そのままウィークリーマンションに入居し、
別居生活をスタートさせました・・・。

はい、私のワイフは、クドいようですが
そんなことをする人ではありません。
とても素敵な女性なのですが、
これはあくまで代理権濫用の一例、
ということで。

この場合、私としては、
いやいやワイフ、あなたは私の代理人なんだから、
そのお金を私のところに持ってきてちょうだいよ、
ていうか、財産分与のために売却したんだから、
半分の25万円を払ってくれればいいよ。
・・・ん?

話が少し変な方向に進んでしまいました。

ここで問題になるのは、
ワイフはれっきとした私の代理人であり、
その代理権の範囲は、
まさに「私の自動車を売る」ことな訳ですから、
ワイフのした代理行為は問題ないように思える。
が、売買代金50万円を自分のものにしてしまっているワイフは、
「私の代理人」と言えるのか・・・ということです。

そこで登場するのが、
改正民法第107条「代理権の濫用」の規定です。

以下において、本件がどのように処理されるのか、
旧法時代と改正民法とで比較してご説明します。

旧法下では心裡留保を類推

改正民法第107条「代理権の濫用」は
新設規定であるため、
旧法には存在しませんでした。

そのため、本件のような問題が生じた場合、
判例は、前々回のコラムでご紹介した
「心裡留保」(第93条)の但し書規定を
類推適用していました。

「心裡留保」は、私が自動車を売る気もないのに
ジョークで売る、と言っても、
そのジョークは通用しませんよ、というのが原則であり、
但し書で、相手方が私のジョークを
知っていたか知ることができたときは、
私の「売る」という意思表示は
無効になります。

つまり、本件に置き換えると、
私が代理権を与えた範囲内の行為であっても、
代理人であるワイフが、私のためでなく、
ワイフ自身の又は第三者の利益を図る目的で
代理行為をした場合、
販売店側がワイフの目的(ワイフ自身又は第三者の利益を図る目的)を
知っていたか知ることができたときは無効、
という訳です。

新法の新設規定では?

しかし、ですね。

旧法時代の判例のように、
ワイフの代理行為を紋切型に「無効」としてしまうと、
その後の処理がちょっと面倒であったり、
好都合とは言い難いケースもあるのです。

先ほど私が、
「ていうか、財産分与のために売却したんだから、
半分の25万円を払ってくれればいいよ。」
と口走ってしまったように、
もう売っちゃったんだから、
半分の25万円をもらうだけで一件落着なのに、
そもそも無効になると再びやり直しな訳で、
何なんだかなぁ・・・
という気がしなくもない。

そこで、改正民法で新設された
「代理権の濫用」規定のお出ましです。

第107条(代理権の濫用)
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で
代理権の範囲内の行為をした場合において、
相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、
その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

はい、「代理権を有しない者がした行為」、
即ち、無権代理とみなす、
となっています。

よって、前回のコラムで扱った
無権代理の内容と同様に、
本件でもワイフは無権代理人とみなされるため、
販売店側(相手方)が有過失であっても、
ワイフ(無権代理人)が、
自己に代理権が無いことを知っていたときは、
履行又は損害賠償の責を負うことになります。

但し、相手方がワイフの「どす黒い目的」を
「知っていた」ときは、
無権代理人に履行又は損害賠償を請求できません。

以上により新法に則れば、
私が自動車の売買契約を追認すれば、
ワイフと販売店側との間で
特段トラブルにはならないでしょう。

25万円が返ってくるかは別問題ですが、
私が上記解決を望んで追認している訳ですから、
ワイフから返してもらうアテがある・・・
ということなんでしょう!

今回は、このへんで。

CONTACT
お問合わせ

司法書士 土地家屋調査士 行政書士 おがわ町総合法務事務所へのお問合わせは、
電話、メールのいずれからでも受け付けております。
お気軽にどうぞ。