ブログ 町の法律日記

意思表示の効力はいつ発生?

今回のテーマは「意思表示」

ここ数回にわたって、完全な意思をもって
なされなかった法律行為等について、
どのような効果が規定されているのか、
といったことについて触れてきました。

今回は、令和2年4月1日から施行された改正民法のうち、
そもそも「意思表示」というものについて、
いつ効力が発生するものなのか、
また、「意思表示」を受領するために求められる
能力等についてご紹介します。

なお、旧法と改正法とで、
それほど大きな違いがある訳ではありません。

意思表示の効力発生時期

例えば、私が、自己の所有物を
ワイフにあげる(贈与)場合、
私がワイフに無償で与える意思表示をし、
ワイフが受諾することによって、
贈与契約は成立します。

上記の意思表示を面と向かって為す場合には、
まさにその意思表示をしたときに効力を生じる訳ですが、
遠くに離れている人に対して意思表示をする場合、
いつ効力が発生するの?というギモンが
ムクムクとわいてきます。

旧法では、それを「隔地者に対する意思表示」として規定しており、
私の意思表示の「通知」が、ワイフに到達した時を
効力発生時期としていました。

なんか、隔地者とやり取りをする手段が
文書の郵送に限られていた頃の規定・・・
というにおいがしますが、
結局、面と向かってでも隔地者間でも
意思表示が相手方に到達した時に効力が生じることに
変わりはありません。

しかも、今では郵送はもちろん、
電子メールでも、LI〇Eでもやり取りができる訳ですから、
わざわざ「隔地者に対する意思表示」について
規定する必要があるのかしらん?ということで(?)、
「隔地者」という概念が取っ払われ、
単に、意思表示の通知が相手方に到達した時から
その効力が生じる、という文言に改められた・・・
のだと思います!

それはいいとして、以下のようなケースでは、
意思表示の効力発生時期がいつになるのか、
旧法に明文規定が存在しませんでした。

私と昵懇の間柄にあったAさん。
私とAさんは、趣味が全く合わないのに、
妙にウマが合いまして、
よくお互いの家を行き来し、遊んでおりました。
私はその関係に満足していたのですが、
折に触れて、Aさんは「釣りに行かないか?」
と誘ってきました。

私は、釣りに全く興味が無いので、
やんわりと断り続けていたのですが、
そのうち、Aさんが私の家に自分の釣り具を置き始め、
「今から釣りに行くけど、一緒に行く?」
などと、いちいち私に一声かけてから
自身の釣り道具をもって釣りに行き、
そのまま自宅に持って帰ればいいものを
わざわざ私の自宅に立ち寄り、
「あ~楽しかった。お前も釣りをすればいいのに」
と言って、釣り道具を置いて(!)去っていく、
そんな奇行を繰り返すようになりました。

Aさんとしては、釣りに興味を持ってほしかったのかもしれませんが、
私としては、まあ、面倒になってきますよね。

で、ついに、こんなやり取りが・・・。
「Aさん、私が釣りに興味を抱くことは、
君が司法書士という資格に興味を持つくらい
あり得ないことなんだよ」

「え、あり得るんじゃね?」

「え・・・?例えが悪かった?じゃあ、単刀直入に言うね。
私が釣りに興味を持つことは、絶対に無い。
ていうか、釣りの何が楽しいんだか。
地球外生物を見るような目で君のことを見ている、
といっても過言でないね!」

Aさん、カッチ~ン!!

「もうお前とは絶交だ!!」
と捨て台詞を吐いて、Aさんは帰って行きました。
自分の釣り道具を私の家に置いたままで・・・。

そんな訳で、Aさんと絶交状態に陥った私。
いまいましいAさんの釣り道具が邪魔で仕方ありません。

で、Aさんに対して、
「釣り道具を1か月以内に取りに来なきゃ、捨てちゃうよん」
と明記した文書を発送。
数日後、Aさん宅の郵便受に到達しました。

ところが、私からの文書が来ていることに気づいたAさんは、
「あんな腐れ外道の手紙なんか誰が読むか。気色悪い」
と考えて、開封することもなく無視しました。

さて、この場合、私の意思表示は
到達したと解されるのか、解されないのか・・・?

これ、私からしてみれば、
自身の自宅(持ち家)には私の所有権という権利がある訳でして、
その所有権が、Aさんの釣り道具によって妨害されているのです。
妨害されているならば、その妨害を排除するべく
Aさんに「釣り道具をどけろ」と請求する権利があるんです。

本件のような場合、
Aさんが、例え私の文書を見ていなかったとしても、
郵便受に入っている訳ですから、
原則として意思表示が到達したものと認められます。

もっとも、Aさんが到達を妨げたことにつき
正当な理由がある場合は別なのですが、
本件のAさんの事情では、
正当な理由がある、とは認められないでしょう。

【おまけ】意思表示の受領能力

意思表示の効力発生時期については先述のとおりですが、
それはあくまで相手方に意思表示を「受領」する能力があることを
前提としています。

旧法では、上記意思表示を受けた相手方が
未成年者(18歳未満)や
成年被後見人(事理弁識能力が無い常況にあり、家裁から成年後見開始の審判があった人)のときは、
意思表示をした人は相手方に「到達したでしょ!」と主張できない。
但し、その法定代理人(未成年者であれば親権者等、成年被後見人であれば成年後見人)が
意思表示を知った時には、その時点で効力が生じる、
ということになっていました。

改正法では、上記がやや修正され、旧法に加えて、
意思表示を受けた際に意思能力を有しなかった(成年後見が開始していない)ときも
意思表示をした人は相手方に「到達したでしょ!」と主張できない、
と明文化され(当たり前?)、
但書も、法定代理人に加えて
相手方が意思能力を回復し、又は成年被後見人でなくなった場合も
意思表示を知った時に効力が生じる、
と補強されています。

ただ、受領能力の改正については、
実務上の影響は無いと思われますので、
あくまで「おまけ」の話、ということで。

今回はこのへんで。

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