ブログ 町の法律日記

勝手に「代理人」を名乗ったら

無権代理

前回、「ジョークは法的に通用する?」と題して
心裡留保(しんりりゅうほ)について綴りましたが、
その流れを受けて、今回は、
令和2年4月1日から施行された改正民法のうち、
無権代理について取り上げます。

「無権代理」というのは、
読んで字のごとく、
代理する権限が無い、ということです。

前回の心裡留保のコラムで挙げた例を少しいじって、
以下のようなケースが
典型的な「無権代理」と言えます。

故あって、夫婦喧嘩をしてしまった
私とワイフ。
ワイフが私の自動車を勝手に持ち出し、
売りに行ってしまいました。

ワイフは、店員に対して、
私が当該自動車を売ることについて
ワイフに委任する旨の記載がある委任状
(ワイフが書いた私の署名と押印がある)を渡し、
あたかも自身が私の代理人で
あるかのように装い、
当該自動車の売買契約を締結してしまった・・・。

はい、私のワイフは、
そんなことをする人ではありません。
とても素敵な女性なのですが、
これはあくまで無権代理の一例、
ということで。

上記のような例の場合、
当該売買契約は成立するのでしょうか?
店側の法益(法によって保護される利益)や如何に?
というか、何より私の法益や如何に??

以下において見ていきましょう。

なお、今回の例では、
「私」は「本人」、
「ワイフ」は「無権代理人」、
「店」は「相手方」という立場になります。

以下の説明では、適宜、
「私」のことを「本人」と言ったり、
「店」のことを「相手方」と言ったりしますので、
悪しからず。

追認するか、拒絶するか

無権代理人が相手方との間で行った法律行為は、
原則として効力を生じません。

だって、私の知らないところで
勝手にワイフが私の「代理人」を名乗って
私の物を売っている訳ですからね。

しかし、例外があります。
私としては、勝手に自動車を売られてしまった訳ですが、
それが結果オーライになる場合も無くはない。
そんな場合にまで「効力が生じません!」と
紋切型に処理されては、融通が利かないなんてもんじゃない、
とも言えます。

そんな訳で、本人には、無権代理行為についての
追認権と追認拒絶権があります。

私がワイフの無権代理行為を追認すると、
上記売買契約は、原則として
契約時にさかのぼって有効となります。

逆に、追認を拒絶すると、
当該売買契約は確定的に無効となります。

なお、追認権と追認拒絶権は、
ワイフに対して行おうと店に対して行使しようと
どちらでもいいのですが、
店側が、私が追認したのか拒絶したのかを
知る必要があります。

それにしても、
無効かもしれないし有効かもしれないなんて
宙ぶらりんな状態に置かれる店側の立場になってみたら、
冗談じゃない、ということになりますよね。

そこで、相手方が保護される規定も存在します。

さっさと確定してちょうだいよ!

相手方は、本人に対して、
相当の期間を定めて、その期間内に追認するかを
確答するよう催告することができ、
本人からの確答が無い場合、
本人が追認を拒絶したものとみなされます。

本件では、
店は、無権代理である事実を
知っているか否かに関わらず、私に対して、
「あなたの奥さんが、あなたの車を
5万円で売りに来たけれど、
売っちゃって構いませんか?
1週間以内に回答してください。」
と催告する訳です。

私としては、愛車を売れば10万円くらいになると
考えていたので(売るつもりなのかよ)、
5万円は安いと考え、上記催告を無視!
定められた期限が過ぎました・・・。

そうすると、店は、
「ああ、追認を拒絶した訳ね。」と
みなす訳です。

なお、店が、当該売買契約の締結時に
ワイフが無権代理人であることを
知らなかった場合に限っての話ですが、
私が追認していない(追認拒絶とみなされてもいない)間は、
店は、当該売買契約を取り消すことができます。

この相手方の取消権は、
相手方が「無権代理であることを知らなかった」ことのみが要件なので、
相手方に落ち度(有過失)があって無権代理であることを知らなかったとしても
行使することができます。

但し、取り消した場合、
店側に損害が発生したとしても、
ワイフに対して責任追求することはできません。

改正点(無権代理人の責任)

ここまで述べてきたことについて、
旧法と改正民法とで特段の違いはありません。

ここからは、無権代理の改正点について
述べていきますが、
細かい改正点は割愛します。

でも、どんなところが細かい改正なのかを
ちょっとだけ挙げておきますね。

実社会において、無権代理で紛争が発生したとき、
旧法の条文では、相手方に悪魔の証明(※「無い」ことを証明しなきゃいけない)が
求められているように読めましたので、
それを改正しているのですが、
これって、要件事実の主張立証責任の問題でして、
このコラムのトーンとは合いませぬ。

こういうのを本稿で取り上げる気は無いので、
「細かい」という表現をもって割愛する次第です。

そういうコラムです。

では、「そういうコラム」で取り上げるべき
無権代理の改正点とは何か?

それは、「無権代理人の責任」(第117条)規定の、
特に同条第2項第二号です。

旧法の場合

無権代理がなされ、本人が追認を拒絶した場合、
当該法律行為は無効で確定します。

そうなると、相手方(取消権を行使しなかった場合に限ります)は、
無権代理人に対して、履行又は損害賠償を請求することができます。

つまり、店は、ワイフに対して、
「あなたが権限も無いのに代理人を名乗って自動車を売りに来たのだから、
ちゃんと責任をもって当該自動車を売りなさいよ」
と(履行を)請求することもできますし、
「あなたが権限も無いのに代理人を名乗って自動車を売りに来たせいで、
ウチに損害が発生しているから、賠償金を支払ってください」
と言うこともできるのです。

もっとも、履行と損害賠償の両方を請求することはできません。
履行してもらえば損害は無い訳ですし、
賠償金を支払ってもらったら履行してもらう必要もないからです。

そして、上記「無権代理人の責任」は、
無権代理人に故意・過失が無くても負うことになります(無過失責任)。

しかし、無権代理人が免責される場合もあります。
無権代理人が、
制限行為能力者(未成年、成年被後見人等)であったり、
代理権があることを証明できたり、
本人から追認を得られたり、
相手方が無権代理について知っていたり、
過失があった(相手方が不注意で無権代理であることに気づかなかった)場合です。

・・・なんだか、違和感がありませんか?

本件で、店は、無権代理については、上述のとおり
過失があっても追認されるまでの間であれば取り消すことができるのですが、
過失があるがゆえに、無権代理人に責任追求できないことになります。

また、ワイフも、上述のとおり無過失責任という重い責を負うのに、
店に不注意があれば免責されるのです。

これは、ちょっとおかしいのでは?
ということで、改正がなされました。

改正点

旧法の「無権代理人の責任」規定では、
上述のとおり、
相手方が無権代理について知っていたり、過失があった場合には、
無権代理人は責任を負わないことになっていました。

それが、次のように改正されました。

相手方が有過失であっても、
無権代理人が、自己に代理権が無いことを知っていたときは、
履行又は損害賠償の責を負う、と。

但し、相手方が無権代理を知っていたときは、
無権代理人に履行又は損害賠償を請求できません。

知っていたときは(催告はできるけど)、取消権も行使できませんから、
そことの整合性も図られているように見えます。

即ち、本件では、
店側が、ワイフが無権代理人であることを知らずに
自動車の売買契約を締結し、
私が追認しなければ、
ワイフに対して、
「その自動車を自分の責任で売れるようにして持ってきなさい」(履行)
又は
「いくらの損害が発生したから、支払って」(損害賠償)
のいずれかを請求することができます。

だって、ワイフは
自身が無権代理であることを知っていた訳ですから、ね。

以上、今回は
無権代理についてのお話でした。

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