ブログ 町の法律日記

令和の改正相続法(遺留分編)

そもそも「遺留分」とは?

令和5年一発目のブログは、
原則的に令和元年7月1日に施行された
改正相続法のうち、遺留分制度について、
ざっくりと述べます。

「遺留分」。
この文言を聞いたことがある方は
少なからずいらっしゃるとは思いますが、
一応、ご説明しておきます。

遺留分とは、被相続人と一定の身分関係にある人に
最低限認められている相続分であり、
割合で表されます。

前回、遺言についてつらつらと綴りましたが、
遺言者の最後の意思を尊重するための制度である
遺言といえど、万能という訳ではありません。

例えば、遺言者に配偶者と子(2人)がいた場合で、
遺言者が配偶者と子1人に対してだけ
財産を相続させ、残る子1人には何も相続させない、
という遺言をしたとします。

この場合、何も相続するものがない子は、
とても不公平な思いをしたり、
納得できなかったりするでしょう。

そこで出番となるのが、遺留分です。

遺留分は、
配偶者、
直系卑属(子、孫、曾孫・・・)
直系尊属(父母、祖父母、曾祖父母・・・)
上記の身分関係にある人が相続人になった場合に、
配偶者と直系卑属には2分の1の割合が、
直系尊属が相続人になった場合には3分の1の割合が
それぞれ認められています。

どういうことか?

例えば、上記の例で見てみましょう。

まず、法定相続分は、
配偶者は4分の2、
子2人は各4分の1
になっています。

ここで、遺言により
何も相続しないことになっている子には、
遺留分割合2分の1を乗じることで、
(法定相続分)4分の1×(遺留分割合)2分の1
=8分の1
となり、
8分の1が遺留分となる。

何も相続しないことになっている子は、
「ちょっと待った!」とばかりに、
自分には最低限の権利として
8分の1を相続する権利があることを
意思表示できるのです。
8分の1の遺留分が侵害されているからです。

この意思表示、つまり
自身に8分の1の持分を帰属させるための請求を、
旧法では「遺留分減殺(げんさい)請求」と言いました。

これ、非常に強力で、
意思表示すれば、された側の感情等とは無関係に、
まさに否応なしに成立する形成権でした。

が、強力なのはいいとして、
それはそれで不便な面もあり、
改正されることになったのでした。

「遺留分減殺」よ、さようなら

遺留分減殺で不都合があった顕著な事例が、
相続財産が不動産であった場合です。

ある相続人Aが、遺言に基づき
ある不動産を相続したとして、
遺留分を侵害された相続人Bが
Aに対して遺留分減殺請求をすると、
当該不動産は、AとBの共有となります。

旧法でもAがBに価額弁償する規定はありましたが、
共有になってしまったら、
もっと言うと、遺留分を侵害されている相続人が多数いて、
その全員から遺留分減殺請求されて共有になってしまったら・・・
もう大変なんてもんじゃありません。

そこで改正法では、
遺留分を侵害されている者(遺留分権利者)から
遺留分を侵害している者(遺留分義務者)に対して、
金銭債権が発生する、つまり、
「自分の遺留分がいくら侵害されているから、その金額を支払って」
と請求できることになりました。

それに伴い、名称も、
「遺留分減殺請求」から
「遺留分侵害額請求」に改められました。

・・・といっても、いまだに
癖で「遺留分減殺」って言っちゃうことが
あるんですけれど、ね・・・。

いつまでに請求する?

では、遺留分侵害額請求は、
いつまでに行う必要があるのか?

それは、遺留分権利者が
相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈を
知った日から1年以内にする必要があり、
「知った日」が訪れなかったとしても、
相続開始(被相続人の死亡日)から
10年が経過すると請求できなくなります。

知ってから1年以内に・・・というのは
結構厳しいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

が、一方で、法律関係を早期に安定させるのが
望ましいとするニーズがあるのも事実です。

請求する時点で具体的な金額を提示することまでは
求められていないようですから、
請求する場合には、まずは期限内に行うことを
重視すべきでしょう。

また、いざ遺留分侵害額請求をしたならば、
現行法においては5年で消滅時効にかかりますので、
それまでに侵害額を回収する必要があります。

もし、遺留分義務者が払ってくれなかったら、
遺留分権利者としては金銭請求訴訟を提起することになりますが、
遺留分義務者の側でも、
支払いたくてもそれだけの現金がなくて支払えない、
ということもあります。

遺留分義務者は、裁判所に対し、
上記金銭債務の支払いについて、
相当の期限を許与するよう求めることもできますが、
許与してもらっても支払えそうにない・・・という場合には
遺留分権利者との合意によって
金銭以外の財産、例えば不動産等を
交付(代物弁済)することになります。

いくら請求できる?

遺留分については、先述のとおりですが、
実際に遺留分を算定するための基礎となる財産の価額は、
ざっくり言うと、
被相続人の積極財産(プラスの財産)に、
相続人でない者に対して相続開始前1年以内に行った贈与の価額を加え、
相続人に対して相続開始前10年以内(改正前は無期限でした。)に行った贈与の価額も加え、
そこから被相続人の消極財産(マイナスの財産)を控除した額です。

上記の金額に、先述の遺留分の割合を乗じた額が
遺留分の額となります。

で、遺留分侵害額は、
上記遺留分の額から、遺留分権利者が実際に承継した財産の価額を控除し、
そこに遺留分権利者が相続によって負担する債務の額を加算した額となります。

最後に、おまけとして、
本稿で「相続開始前1年以内の贈与」と
「相続開始前10年以内の贈与」が出てきましたが、
それとは別に、
相続税申告における贈与の扱いがあります。

相続税申告で相続財産を算定する場合、
これまでは相続開始前3年以内の贈与が
相続財産に組み入れられて(持ち戻しされて)きましたが、
令和6年1月からは、
なんと相続開始前7年以内の贈与が対象となります。

相続の法律問題と税の問題は別ですので、
混同しないように注意しましょう。

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