ブログ 町の法律日記

代理権があるように見えたのよ

無権代理の一種、表見代理

ここ最近、
「ジョークは法的に通用する?」(令和5年5月9日更新)
「勝手に『代理人』を名乗ったら」(令和5年6月16日更新)
「本人のための代理じゃなかったら」(令和5年7月18日更新)
と、3回にわたって、改正民法のうち
無権代理に絡むものを紹介してきましたが、
今回は、そのラストを飾るものとして、
「表見代理」について扱います。

この「表見代理」に関する規定は、
無権代理の一種として民法が改正される前からあり、
今回の改正で大きく変わった訳でもありません。

今回の改正あるあるで、
判例法理を整理・明文化した感じですが、
実務でトラブルになりやすい事案に関する規定なので、
触れるべきかな、と思っております。

表見代理

表見代理には、
「代理権授与の表示による表見代理」
「権限外の行為の表見代理」
「代理権消滅後の表見代理」
の3種類があり、
その中で「代表格」と言える程に出番が多いのが、
「権限外の行為の表見代理」です。

「代理権踰越による表見代理」とか
「越権代理」なんて呼ばれることもあります。

なお、今回改正されたのは、上記3種のうち、
「代理権授与の表示による表見代理」と
「代理権消滅後の表見代理」です。
(※厳密には越権代理も変更されていますが、
規定の意味が変わらない変更であるため、
「改正された」とは評価していません。)

以下において、例を挙げて見ていきましょう。

代理権授与の表示による表見代理

表見代理とは、
本ブログでこれまでに挙げてきた
分かりやすい(?)例を用いて説明すると、
以下のようなものを言います。

<無権代理の例>
故あって、夫婦喧嘩をしてしまった
私とワイフ。
ワイフが私の自動車を勝手に持ち出し、
売りに行ってしまいました。

ワイフは、店員に対して、
私が当該自動車を売ることについて
ワイフに委任する旨の記載がある委任状
(ワイフが書いた私の署名と押印がある)を渡し、
あたかも自身が私の代理人で
あるかのように装い、
当該自動車の売買契約を締結してしまった・・・。
(※以上、「勝手に『代理人』を名乗ったら」(令和5年6月16日更新)より)

上記の例をこんな感じに変えると、
「代理権授与の表示による表見代理」
になります。

<表見代理の例1>
故あって、夫婦喧嘩をしてしまった
私とワイフ。
私が投げやりになって、
「じゃ、司法書士を辞めて都内で働くから、
車も要らなくなる。売っておいてくれる?」
と100%冗談で言いました。

ワイフは、そこは長年私と連れ添った仲。
冗談と理解して何のアクションも起こしませんでした。

しかし!
ゆでダコ状態の私は、勢いで車の買取業者に、
「私の車を売ることについて、ワイフに代理権を与えたから」
と申し出てしまいました(そんなことあるかな・・・)。

買取業者が「分かりました」と言って、
ワイフのもとへ行き、
「タツワキ様が、車を売ることについて
ワイフ様に委任した、とおっしゃっていましたので、
買取に上がりました」と言いました。

ワイフ「あれま、あれは冗談じゃなかったの!?
あら嫌だ、私ったら。
分かりました。売ります」

ということで、
ワイフは私の代理人として
車を売ってしまったとさ・・・。

・・・如何ですか?
無権代理の例でも、表見代理の例でも、
ワイフに代理権が無い事実は同じです。
ゆえに、表見代理も無権代理の一種なのですが、
「誰がリスクを負うべきか」が
随分違ってくるように思えますよね。

無権代理の例だと、
悪いのは勝手に売りに行ったワイフです。

表見代理の例だと、
代理権を与えてもいないのに、
私が「ワイフに代理権を与えた」と
買取業者に言っているので、悪いのは私です。

このような表見代理の場合、
買取業者が、ワイフに代理権が無いことを
過失無く知らなかったこと(善意無過失)を条件として、
ワイフの無権代理行為を
代理権がある行為と同様に扱う、
即ち、自動車の売買契約は有効に成立する、
ということになります。

代理権が存在するような外観を作り出した私に責任があるならば、
取引の安全を図るため、その外観を落ち度なく信用した
買取業者を保護する必要がある訳ですね。

なお、上記の表見代理の例で、
ワイフが買取業者との間で権限外の行為をしたとき、
例えば、自動車でなくバイクを売った、とか、
私が自動車を1台を売る、と買取業者に言っているのに
2台売ってしまった、という場合には、
買取業者が、ワイフにそのような代理権が無いことを
何の落ち度も無く知らず、
そりゃ信じるよな、と評価されるべき正当な理由がある場合に限り、
上記権限外の売買契約が有効になります。

もともと、ありもしない代理権がある、と
買取業者に言った私に責任があるのです。
反省。

なお、上記の権限外の行為に関する規定は、
次の越権代理の規定と重ねて(こぼれ落ちるケースを補い合う、という感じです。)
適用されます。

権限外の行為の表見代理(越権代理)

「改正」という点では見るべきものがありませんが、
「表見代理」としては本丸と言うべき規定が、
この代理権踰越の表見代理です。

これも、先に紹介した表見代理の例を
少しいじってご紹介します。

<表見代理の例2>
故あって、夫婦喧嘩をしてしまった
私とワイフ。
私が「じゃ、司法書士辞めるか。
都内で働くから、車も要らなくなる。
売っておいてくれる?」
と「冗談抜き」で言いました。

・・・フィクションですよ!!

フィクションですが、まさに私は
ワイフに自らの自動車を売ることについて
代理権を与えたのです。

ワイフは、「自分で売りに行けばいいのに・・・」
と乗り気でなかったため、買取業者のもとに行かず、
友人のもとに赴き、私の代理人として、
「ボロ車だから、お金は要らないよ」と言って
贈与してしまったとさ・・・。

売ったんじゃなくて、
あげちゃったんだとさ!

このようなケースだと、悪いのはワイフ、
という気もしますが、
法では、委任していないことを勝手にやっちゃうような人を
代理人にしたんだから、その責めは本人(私)が負いなさいよ、
と規定されています。

無論、上記の友人(相手方)が、
ワイフが越権代理をしていることにつき
何の落ち度も無く知らず、
そりゃ信じるよな、と評価されるべき正当な理由がある場合に限り、
上記権限外の贈与契約が成立する訳ですが、
私にしてみれば、泣くに泣けないお話、
と言えましょう・・・。

代理権消滅後の表見代理

この規定も、先に述べた
代理権踰越による表見代理における法の考え方、
即ち、「そんな人を代理人にしちゃったアンタが悪い」理論が
適用されます。

改正前は、
代理権が消滅したことを
落ち度なく知らなかった第三者(相手方)に対しては
主張できませんよ。
「代理権無くなってたのよ!」とは言えませんよ、
とだけ規定されていたのですが、
改正後は、より細かく、
2項にわたって規定されています。

やはり、これまでに挙げた例をいじって
紹介しましょう。

<表見代理の例3>
故あって、夫婦喧嘩をしてしまった
私とワイフ。
私が「じゃ、司法書士を辞めて都内で働くから、
車も要らなくなる。売っておいてくれる?」
と「冗談抜き」で言ったとします。

そう、確かに私は、ワイフに対して
自動車を売ることについての委任状を
手渡しました(代理権授与)。

が、その後、思い直した私は、ワイフに
「やっぱり車を売るっていう話は無しね」
と言って、ワイフの代理権は消滅しました。

ところが!

ワイフは、買取業者のところへ行き、
私から受け取っていた委任状を店員に渡して、
当該自動車の売買契約を締結してしまった・・・。

はい。
これだと、まあ、委任状を回収しなかった
私にも落ち度があると言えましょう。
実話だとすれば、司法書士失格ですね。

上記のような例だと、
買取業者が、ワイフの代理権が消滅していることについて
何の落ち度もなく知らなかった場合に限り、
売買契約が有効に成立します。

<表見代理の例4>
私がワイフに、
「車はもう要らないから、売っておいてくれる?」
と言って、自動車を売ることについての委任状を渡したものの、
後日思い直し、「やっぱり車を売るっていう話は無しね」
と言って、ワイフの代理権は消滅しました。

が、ワイフは何を思ってか、
友人のもとに赴き、私の代理人として、
「委任状には車を売ることって書いてあるけど、
ボロ車だから、お金は要らないよ」と言って
贈与してしまったとさ・・・。

このような場合、
上記友人が、上記贈与契約について
ワイフに代理権が無いことを何の落ち度も無く知らず、
そりゃ信じるよな、と評価されるべき正当な理由がある場合に限り、
上記権限外の贈与契約が有効に成立します。

なお、この例4に係る規定も、
先述の越権代理規定と重ねて(こぼれ落ちるケースを補い合う、という感じです。)
適用されます。

どっちを選択してもいいんです!

今回は、表見代理について説明してきましたが、
冒頭で述べたように、表見代理は無権代理の一種であるため、
表見代理と無権代理の双方が成立するケースも
少なからずあります。

そのような場合には、
買取業者やワイフの友人(以下、「相手方」)の保護を重視し、
相手方(全く落ち度が無く知らなかった場合)は、
表見代理を主張して契約を有効に成立させるか、
ワイフ(以下、「無権代理人」)の責任を追及
(相手方が有過失であっても、無権代理人が自己に代理権が無いことを知っていたときは、
履行又は損害賠償の責を負うことになります。)することができます(二重効)。

表見代理を主張するか、無権代理を主張するかは、
相手方が自由に選ぶことができるのであり、
例えば、避難されるべき無権代理人のほうから
「相手方に落ち度がある!」等、表見代理の成立を主張して
自己の責任を免れることはできません。

また、表見代理も無権代理の一種ですから、
無権代理の追認、催告、取消し規定も
主張することができます。

本日は、このへんで。

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