ブログ 町の法律日記

ダマされてしまったら・・・

詐欺と強迫

今回は、「詐欺」の規定について取り上げます。

騙されたり、脅されたりした場合、
刑法に詐欺罪や脅迫罪の規定があります(刑事事件)が、
民法においても、詐欺や強迫(脅迫ではありませんが、脅すことです。)に関する
規定が存在します(民事事件)。

上記規定は、民法が改正される前からあるもので、
例えば第96条第1項は、まったく改正されていません。

(詐欺又は強迫)
第96条第1項
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

なお、強迫については、同条で何ら改正がなされていませんので、
本稿では扱いません。

が、詐欺については、同条第2項及び第3項が改正されています。

実際、詐欺に直面した場合、
刑事事件として扱われるか否かに拘わらず、
別途民事事件として提訴する等の検討をすることが考えられますので、
どのような点が改められたのか、以下で見ていきましょう。

詐欺とは?

まず、第96条第1項にある「詐欺による意思表示」とは、
相手方のダマし(これを欺罔行為といいます。)によって
自身が錯誤の状態に陥り、その状態で為した意思表示
のことです。

錯誤状態で為した意思表示であるがゆえに、
詐欺による意思表示は、
前回の「肝心なところを間違えた!」(令和5年9月1日更新)で
錯誤について述べたように、
原則として取り消すことができます。

不動産を例にして、見てみましょう。

仕事柄、私の事務所には、
いろいろな方から不動産登記についてのご相談がありますが、
中には、『これは原野商法ですね・・・』と思ってしまう(けど口には出さない)
ケースがあったりします。

原野商法とは、右肩上がりの経済成長を続けていた頃に
よくあった利殖商法ですが、
田舎の安い土地を、「将来開発されて価値のある土地になるから」などと言って、
相場より随分高い値で提示して売りつける、というものです。

そんな開発話は無い訳ですから、当該土地の価値が上がることは無いのに、
買った人は「将来、買った値より高くなるから得をする」と考える、
つまり、錯誤の状態に陥っている訳です。

竹を割ったように言ってしまうと、
騙された訳です。

このような場合に、
騙された人は、騙した人に対して、
売買契約を取り消す(契約当時にさかのぼって無効にする)ことができ、
当該土地の所有権を騙した人に戻し、
騙した人から売買代金を返してもらいます。

・・・が!
想像するに難くないですが、
騙した人が「はい、すみませんでした。
確かに私があなたを騙しましたので、
売買代金をそっくりお返しします」
なんて言って返金してくれることは、ほぼ期待できません。

訴訟をして、仮に勝ったとしても、
騙した人は、騙し取ったお金をすぐに使ってしまう等して
ほとんど残っておらず、差押えられる財産もほとんど無いことが
珍しくないので、お金を完全に回収することは困難と言えます。

結局、騙されないようにするのが一番、
ということになります・・・。

なお、詐欺取消しを主張するケースというのは、
少なからず錯誤取消しを主張できるケースでもあるため、
詐欺取消しと錯誤取消し、
両方を主張しても構いませんし、
どちらかを主張するのでも構いません(錯誤と詐欺の二重効)。

改正点

今回の民法改正で、手を加えられたのは、
第三者による詐欺についてと、
詐欺が第三者にどのような影響を及ぼすか、
についてです。

まず、第三者による詐欺とは、以下のようなケースです。

田舎の資産価値が無い山を所有している人を「Yさん」として、
騙す人を「A(※呼び捨て)」とし、
騙される人を「Xさん」とします。

Aが、Xさんに、
「あの山は、すごく安いように思うかもしれませんが、
実は得川(ト〇ガワ)埋蔵金が眠っているという噂があって・・・。
埋蔵金の価値は5000万円を下らないでしょう。
私は所有者のYさんと仲良しなので、
1000万円で売るように話を持ち掛けることができます。
少々値は張りますが、買っておいて損はしませんよ!」と
土地の売買話を持ち掛けました。

Xさんは、「そんなにいい山があるのなら」と思って、
Yさんから当該土地を1000万円で買うことにしました。

Aは、Yさんに、
「あなたが持てあましているあの山、
資産価値は数万円程度でしょうけれど、
1000万円で買ってくれる人がいるんですよ!」と言い、
Yさんは有頂天になって、Aに「その奇特な人」を
紹介するようにお願いしました。
Aには紹介料として200万円を支払う約束をしました。

かくして、Xさんは、Yさんから
当該土地を1000万円で買いました・・・。

この場合、最初のケースと異なり、
騙した人は、売買契約の当事者ではありません。
当事者は、あくまでXさんとYさんです。

が、その売買契約は、騙した人(売買契約の第三者)の
欺罔行為によって成立したものであり、
これを「第三者による詐欺」と言います。

Xさんは、騙されたと気づいた場合、
売買契約を取り消したいのですが、
Yさんは全く騙していない訳で・・・
どうなるの?というのが、このケース。

改正前は、Yさんが、第三者がXさんを
騙していることを知っていたときに限って
取り消すことができる、と規定されていました。

Yさんが欺罔行為を知っているなら、
取り消されても気の毒じゃないよね、
ということです。

が、普通に考えたら、
Yさん、あなたはXさんが
騙されていることに気づきますよね、
騙されていると知ることができたんじゃないんですか!?
というケースが少なくありません。

でも、取り消せるのは
Yさんが詐欺について「知っていたとき」に
限られていたのです。

これは、詐欺の場合、
騙された人にも「儲かるかもしれない」と考える等、
一定程度の落ち度があるから、
表意者(騙された人)よりも相手方の保護を図るべき、
と考えられていたことによります。

しかし、それでは騙された人の保護が十分でない、ということで、
Yさんが詐欺について
「知っていたとき」か
「知ることができたとき」には
取り消すことができる、と改正されました(民法第96条第2項)。

詐欺が第三者に及ぼす影響

改正点の2つ目は、
詐欺が第三者に及ぼす影響についてであり、
民法第96条第3項がそれに当ります。

いわゆる「取消し前の第三者」というものであり、
以下のようなケースが挙げられます。

<登場人物>
Xさん(やっぱり騙される人)
A(詐欺師)
Yさん(新たに法律関係に加わった人)

Xさんが、Aに騙されて、
自己の所有する不動産を不当に安く
Aに売ってしまいました。
で、当該土地の所有権をXさんからAに移転する
不動産登記を経由しました。

Aは、当該土地を欲しがっているYさんに
買った金額より随分高い値段で当該土地を売り、
所有権移転登記を経由しました。

その後、騙されたと気づいたXさん。
Aに対して、詐欺を理由に売買契約を取り消す旨の意思表示をしました。

さて、この場合、当該土地を取得した
Yさんの立場はどうなるのでしょう・・・?
YさんはXさんを騙しておらず、
典型的な「第三者」と言えます。

旧民法では、
AがXさんを騙したことを、Yさんが知らなかったのであれば、
Xさんは詐欺取消しを主張できない、
と規定されていました。
Yさんが事情を知らなかったことについて
落ち度があるか無いかは不問だった訳です。

XさんよりYさんの法益が重視されていた理由は、
先述のとおりです。

それが、改正法では、
AがXさんを騙したことを、Yさんが知らず、
かつ、落ち度が全く無い場合に限り、
Xさんは詐欺取消しを主張できない、
ということになりました。

即ち、Yさんに少しでも落ち度があれば、
Xさんは詐欺取消しを主張できることになります。

【おまけ】取消し後の第三者

では、XさんがAに対して
詐欺を理由に売買契約を取消した後に、
AがYさんに当該土地を売った場合はどうなるでしょう?

これについては、何ら改正されていないため、
あくまで「おまけ」の話です。
いわゆる「取消し後の第三者(Yさん)」の問題です。

結論から言うと、
この問題は「早い者勝ち」であり、
「食うか、食われるか」であります。

どういうことか・・・?

小難しい言葉で言うと、
復帰的物権変動
というものでして・・・。

まず、当該不動産の所有権(物権)が、
売買契約の成立によって
XさんからAに移転(取り消さなければ有効なため)。
所有権移転登記をしました(所有権登記名義人がXさんからAになる)。

その後、XさんがAに対して
詐欺を理由に売買契約を取り消したので、
売買契約は遡及的に無効となり、
当該土地の所有権がAからXさんに戻りました(これが「復帰的」)。

が、XさんからAに所有権が移転した登記を
抹消する前に、
自身が所有権登記名義人になっていることをいいことに、
Aが「自分が所有者だから。ほら、登記記録を見てみそ」と言って
Yさんに当該不動産を売ってしまった、と。

所有権を取り戻したXさんと、
登記を信用して不動産を買ったYさん。
どちらも保護するに値しますよね・・・。

この場合、どちらが所有権を獲得するかというと、
「先に登記をした方が勝ち」
となります。

具体的には、
XさんがAへの所有権移転登記を抹消する登記をする(Xさんが所有権登記名義人になる)のが先か、
YさんがAからの所有権移転登記をするのが先かであり、
先に登記できた方が「所有者」となります。

Yさんが、Aが詐欺を働いた事情を知っているか否か、
落ち度があるか無いかは関係ありません。

不動産登記がとても大事なものであり、
素早く、正確に為す必要があるものだ、
ということが分かる好個の例と言えましょう。

で、不動産登記を受任できる専門家が、
司法書士、という訳です。

今回は、このへんで。

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