ブログ 町の法律日記

相続登記義務化が骨抜きに!?

「相続登記の義務化」と言うけれど

前回、「相続登記義務化がスタート!」(令和6年4月1日更新)で、
令和6年4月1日から、相続を原因とする不動産登記が義務となり、
相続人が、その不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記をしないと
原則として10万円以下の過料に処せられる恐れがある(正当な理由がある場合を除く)、
ということを述べました。

その過料を免れる(=義務を履行する)窮余の策として、
相続人申告登記というものが新設されたことも、
前回述べたとおりです。

そもそも、なぜ相続登記が義務化されたのか?

それは、全国各地で、不動産登記記録を見ても
所有者が判明しない又は連絡が付かない
所有者不明土地が国土の約4分の1を占めるまでになり、
そのうち約6割が相続登記未了の状態であることから、
民間・公共事業等を阻害する問題が顕在化しているためです。

そんな具合でスタートした相続登記の義務化を
実効性のあるものにするために、
(1)相続が発生した場合、相続人には登記をする義務がある(履行しないと過料がかかる。以下同)。
(2)遺言により又は遺産分割の協議をして当該不動産を誰が相続するかを決めたなら、
その相続した者に登記義務がある。

上記(1)及び(2)の2段階で、
相続人に登記義務を負わせることになっています。

ところが、です。

相続人申告登記(お勧めできないのは前回既述)をしなくても、
過料がかからない場合が結構想定される、
もっと言うと、相続登記義務化が骨抜きになっているのでは?
と思われる「通達」が出ているのです。

申請の催告

まず、相続登記を3年以内に申請していなくて、
過料の対象になると思われる方がいることを登記官が知った場合、
その方に対して「いついつまでに相続登記するように」という
申請の催告がなされます。

この時点で、「3年以内に申請しないと過料」という罰則規定が
骨抜きになっている感が否めません。
だったら、相続税の申告だって、期限内にしなかった場合には、
このような優しい措置が為されて然るべきなのでは・・・?

国は、本気で所有者不明不動産問題を
解決する気があるのか?と思ってしまいますが、
まあ、催告することは寧ろ必要な配慮だと思いますから、
あって然るべきかな、と思います。

ともあれ、上記催告で示された期限内に
相続登記申請がなされない場合には、
登記官(当事務所であれば、さいたま地方法務局東松山支局)から
管轄地方裁判所(同、さいたま地方裁判所熊谷支部)に
過料通知がなされる(登記官にとって、この通知をすることは義務)
ことになります。

骨抜きの正体「927号通達」

相続登記義務化を実効性あるものにするうえで問題だと思うのは、
法務省民事局長から発せられた
「法務省民二第927号」(通達)です。
便宜上、略して「927号通達」とします。

927号通達では、
登記官が、以下のいずれかの事由により
相続登記義務違反を職務上知ったときに限って、
先述の催告を行う、ということになっています。

(1)遺言書に記載されている複数の不動産(例えばA、B及びC)のうち、
A及びBの不動産についてのみ相続登記の申請をした場合。

(2)遺産分割協議書に記載されている複数の不動産(例えばA、B及びC)のうち、
A及びBの不動産についてのみ相続登記の申請をした場合。

つまり、上記(1)(2)のいずれの場合でも、
Cの不動産を故意(「要らないや」とか)又は過失(記載漏れ等)によって除いた内容で
相続登記の申請をした場合に限り、
登記官がそれを職務上知ったならば、
催告を行いますよ、ということです。

・・・遺言はともかく、
遺産分割協議において、過料を免れるために
意図的に不要な不動産を書かずに協議書を作成し、
そこに記載されている不動産を漏れなく相続登記申請すれば、
過料がかからないことになるじゃない・・・。

そもそも、「不要な不動産」と思われるものが
所有者不明不動産になっているのに、
このような通達を出したら、
まさに相続登記義務化は骨抜きになってしまうのでは?
と思います。

但し、上記のように意図的に「不要な不動産」を除いて
遺産分割協議等をしちゃった場合、
相続問題がより深刻化すると言えます。

数次相続の問題です。

数次相続とは?

数次相続とは、例えば、
「ある不動産」の所有者(登記名義人)Xさん死亡。
相続人は、子のAさん(法定相続分3分の1)、Bさん(同)及びCさん(同)の
3名だったところ、相続登記未了のうちにBさんが死亡。
Bさんの相続人は、配偶者のDさん(法定相続分6分の1)、子のEさん(同)の
2名、といったケースです。

Xさんが死亡して、一次相続が発生。
Aさん、Bさん及びCさんが一次相続人となります。

その後、Bさんが死亡したことにより、二次相続が発生。
Dさん及びEさんが二次相続人(相続人Bさんの相続人)です。

このように、二次、三次、四次・・・と発生する相続事件を、
「数次相続」と言います。

相続登記をせずに放置することにより、
上記のような数次相続案件がもの凄く沢山あり、
私が事務所を構える比企郡小川町でも、
墓地、山林、公衆用道路、農地、雑種地、未登記建物等で
多数発生しています。

なお、未登記建物とは、
建物(不動産)は存在するのですが、
住宅ローンを組まずに建築した場合等に、
そもそも不動産登記(建物表題登記)自体をせずに
現在に至っているものを言います。

田舎では、かなりの数で存在します・・・。

上記の例のように数次相続が発生している案件で、
DさんとEさんが、
Bさんの遺産(BさんとDさんが同居していた一軒家)について
分割協議のうえ、相続登記を申請したい、
と考えたとします。

この場合、被相続人Bさんの遺産(一軒家)の法定相続分は、
Dさん2分の1、Eさん2分の1です。

しかし、実際には、
Bさんの遺産を構成している不動産には、
Xさんが所有権登記名義人になっている「ある不動産」の
Bさん法定相続分3分の1も含まれています。

つまり、「ある不動産」については、
二次相続人のDさんとEさんは、法定相続分各6分の1で、
Aさん及びBさんと共に共同相続人、ということになります。

遺産分割は、できる時にやってしまわないと、
次の相続(二次相続、三次相続等)が発生してしまい、
まとまるものもまとまらなくなるケースが少なくありません。

よって、Dさん及びEさんとしては、
Bさんを中間相続人として流れてきた
Xさんの「ある不動産」に係る遺産分割協議を例えばAさん及びCさんと共に行い、
別途、Bさんを被相続人とする一軒家の遺産分割協議を行う等した方が
いいことになります。

が、面倒だから、とか、
過料を免れるために、ということで、
「ある不動産」を協議の対象から外してしまうと、
「ある不動産」は相続登記未了の状態となり、
ずーっとAさん、Bさん及びCさんのそれぞれで数次相続が発生していく、
気づいた時には遺産分割協議なんてできないくらい複雑化する・・・。

ね?
927号通達があるために、
相続登記を義務化することになった本来の目的が
(過料を免れようとするために)十分に達成できなくなる
可能性がありますでしょ?

国の本気度には「?」な次第ですが、
後世、ご自身の子孫にどんなシワ寄せがいくか
知れたものではありませんので、
過料逃れの方策は講じないようにした方がいいと考えます。

相続登記は、先延ばしにしてもメリットはあまりありませんので、
できる時に行うように心がけましょう。

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