ブログ 町の法律日記

検証!相続土地国庫帰属制度

制度が施行されて2年が経過

以前、本ブログにおいて、
売れない不要な不動産(土地)を相続又は贈与により取得した場合、
当該土地を条件付きで国庫に帰属させられる制度がスタートする、
ということを紹介しました〔「相続等で「負」動産を取得したら」(令和4年9月29日更新)〕。

詳細については、上記の記事を参照していただくとして、
その当時、上記制度が令和5年4月27日にスタートするんだけれど、
国庫に帰属させられる対象となる土地の要件が結構厳しく、
費用も結構嵩んでしまうので、
実用性に欠ける感が否めない、と述べていました。

あれから、はや2年が経過・・・。
実際の運用は、どうなっているのか?

上記制度の根拠法である
「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」の附則に、
「政府は、この法律の施行後五年を経過(筆者注:令和10年)した場合において、
この法律の施行の状況について検討を加え、
必要があると認めるときは、
その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」
とあるだけに、その運用を追いかけてみる必要があります。

という訳で、今回は
当該制度、いわゆる「相続土地国庫帰属制度」について
依頼を受けた実績のある私が、その経験に基づき
実情に迫ってみることとします。

但し、私には当然に守秘義務がありますので、
生の事実をかなり変えて、でも実情が伝わるように
アレンジしていることを断っておきます。

実際の事案

令和5年秋、当事務所の近隣に住むAさんから、
以下のような相談を持ちかけられました。

(1)Aさんの父親Xさんが亡くなったので、Xさん名義の不動産について、相続登記の依頼をしたい。
(2)Xさん名義の不動産は、関東の他、某地方にもある。
(3)某地方の不動産は2筆(隣接。合計地積約400平米)あり、地目はいずれも「畑」である。
(4)なぜそんなに離れたところにある畑をXが買ったのかは、母親のYさんにも分からない。
(5)某地方の不動産2筆を誰が相続するか決めかねているが、母親Yさんを含め、誰も相続したくないと思っている。
(5)でも、関東の不動産はYさんかAさんが相続したいと思っている。

ざっと、こんな感じです。
そこで、以下のように回答しました。

関東の不動産については、誰が相続するかを話し合って決めてください。
その決定に基づき、相続登記をします。

しかし、目ぼしい財産を相続した人は、
資産価値の無い財産を相続せずに逃げることはできません。
つまり、何かを相続した人は、
少なくとも相続放棄申述できなくなります。

このような場合、某地方の不動産については、
相続土地国庫帰属制度を利用するのも選択肢の一つです。

話を聞く限りにおいては、更地だということですし、
他に制度を利用できない事由があるとまでは
言えないようですので。

一旦、某地方の不動産については、
Yさんが相続しては如何でしょう?
Yさん名義に相続登記をした後、
相続土地国庫帰属制度を利用して、国庫に帰属させるべくトライし、
駄目なら、Yさんがご健在のうちに
関東の不動産はお子さんに贈与するか売却する等処分をして、
Yさんがお亡くなりになった後、
Aさんたちお子さんたちが相続放棄申述を検討する、ということで。

但し、相続土地国庫帰属制度を利用する場合、
結構費用が嵩んでしまうのが難点ですが・・・。

後日、Aさんから、
関東の不動産については自身が相続し、
某地方の畑(更地)はYさんが相続することになったので、
それぞれ相続登記を私に依頼したい。
その後、某地方の畑について、相続土地国庫帰属制度を利用したいので、
引き続き私に依頼したい。
との連絡がありました。

はい。
依頼されたので、当然、始動します。

相続登記をする

以上の流れで、AさんとYさんからの依頼により、
関東の不動産についてはAさんに、
某地方の不動産についてはYさんに、
それぞれ所有権が移転するよう
不動産登記(相続登記)を行いました。

年内に完了したので、
令和6年度の固定資産税(及び都市計画税)納税通知書は
関東の不動産についてはAさん宛に、
某地方の不動産についてはYさん宛に
それぞれ届くことになります。

なお、某地方の土地が要らないからといって、
相続登記をせずに放置することはお勧めできません。

本ブログでも何度が述べているように、
相続登記は令和6年4月1日から義務化されているからです。

そんなこんなで、いよいよ本丸。
令和7年初頭から、某地方の農地を国庫帰属させるべく
AさんとYさんと共に打合せを開始しました。

なお、国庫帰属の承認申請をする当事者は
Yさんであり、Aさんは無関係なのですが、
当該申請手続は、法定代理人を除き、本人による申請のみが認められており、
専門職であろうとも「代理」でなく「代行」ができるだけなんです。

ここが曲者でして、
代理ができない手続である以上、
本件についてYさんがしっかり理解して、
Yさん自身の判断によって行う必要がある。

従って、Yさんは大層高齢なのですが、
本件手続についてYさんがしっかり理解できるように
事細かに説明をしなければなりませぬ。

が、一応、YさんだけでなくAさんにも
説明を聞いてもらった方が心強いため、
AさんとYさんと私が一堂に会して打合せをしたのでした。

検討!相続土地国庫帰属制度を利用できそうか否か

埼玉県比企郡小川町の司法書士が、
某地方の見知らぬ農地(小川町内にも見知らぬ土地はいっぱいあるけど。)について
手続をする訳ですから、当該農地が実際のところどのようなものなのか、
具体的には、当該制度を利用できる土地なのか(国庫帰属要件を全て満たしている土地なのか)を
事前にできるだけ詳しく知っておく必要があります。

現地に行くことは必須であり、Yさんにとってはそれだけで費用が発生する訳ですから、
話を聞いて「ダメそうですね」と判断できるものなら、
現地に行く必要も無くなるので、当然です。

各種図面、衛星写真、近隣の不動産所有者に対する情報収集、
境界杭の存否、対象土地の地形等特徴(法務局備え付けの公図と地積測量図とでかなり差異がある事案だった)
帰属が認められない要件に該当する恐れは無いか等々、
いろいろ情報を収集し、検討した結果、制度利用できなくはなさそうだ、
と判断するに至りました。

但し、上記の情報を収集する過程で、
(1)結構な崖があること(隣接した2筆とはいえ、段々畑のようになっており、筆境の段差がかなりある)
(2)境界杭が無く、境界を示すべき地点が10か所を優に超えるであろうこと
上記2点が大きな障壁であり、それをクリアできるかは
現地を見てみないと何とも言えませぬ。

雪解けの季節を待って、現地の除草をしてもらい、
杭を打つための測量等ができる状態になったら
飛行機で現地に向かうことになりました。

なお、当然のことながら、埼玉の私でなく、
現地近くに事務所を構える司法書士か、
土地家屋調査士(※測量のため。測量後、現地の司法書士を紹介してもらうとか。)に
依頼した方がいいんじゃないですか?
と聞いてみたのですが、私にお願いしたい、ということでしたので・・・。

私、司法書士の他に土地家屋調査士も兼業していますから、
お断りする理由はありませんでした。

閑話休題

4月になって積雪の恐れもほぼ無くなり、除草も済んだということで、
管轄法務局と協議をする日程調整(予約)、ホテルの予約等を済ませ、
現地へ出張しました。

なお、飛行機でした(※現場は本州でない。)ので、
大きな杭を何十本も持っていけるものでなく、
最低限のプラスチック杭と金属製でないハンマー等を
引っ提げての旅立ちです。

肩透かし

現場は農地ということで、住所が存在しません。
それゆえ、事前に伺っていた場所に赴き、
「ここですか?」と画像をスマホで送る等して
現地を特定しなければなりません。

で、現地と思しき場所に到着!
・・・したのですが・・・。

草がボーボー・・・。
地肌が一切見えない状態でした。
除草したんじゃなかったの・・・?

目的地はここじゃないことを祈りつつ、
依頼者さんに「ここですか?」と画像を送ったところ、
なんと「そこです」とのことでした。

こんなに草ボーボーじゃ
測って杭を打つことなんて不可能です、と伝えました。

「そうですか・・・」と意気消沈する依頼者さん。
でも、私も負けず劣らず気落ちしました。

現地は結構広く、かつ10か所を優に超える地点に杭を打つとなると、
一日作業です。
それゆえ、この日は測量と杭打ちに専念し、
翌日、法務局や関係各所に行こうとスケジュールを組んでいたのですが、
全てパーです。

が、せっかく来たのですから、
できるだけのことをしなければなりません。
草をかき分けつつ、翌日法務局に現況を説明するための写真撮影をし、
却下事由、不承認事由に該当しないかの確認、確認、確認・・・。

とりあえず、大きな障壁と目されたもののうち(1)の崖については、
ギリギリ承認基準を満たすレベルだったので、クリア。

障壁(2)の杭も、1か所だけ発見!
杭の種類からして、その近くにもう1か所杭がある可能性が
非常に高いことから、探すこと数十分・・・。
あった、ありました!
土に埋もれて見えなくなっていたもう一つの「あるはず」の杭が!!

上記2か所の杭さえ見つかれば、
それを縁に残りの境界(結果的に20か所近く)の目星を付けることができます。
但し、草さえ刈ってあれば、の話ですが。

そんなこんなで、どうやら草さえ刈ってあれば
国庫帰属させられそうな目途を立て、
現地を後にしたのでした。

翌日、法務局との協議や関係各所での資料収集等を行い、
成功裏に終わる確度をグンと上げておいて、
埼玉への帰路に就いたのでした。

捲土重来

その後、依頼者さんからの
草刈り終了のお知らせを待つこと約1か月。

今度こそ、しっかり草刈りを終えた、との知らせがあったので
再度飛行機で現地に飛びました。
2回目ということもあり、依頼者さんの費用負担を考慮して
今度はホテルも予約せず、日帰り弾丸杭打ちツアーでございます。

かくして、現地に到着。
草刈り、バッチリですよ。Yさん、Aさん!
見える、地肌がハッキリと見えるぞ~!

もう5月下旬になっており、汗ばむ陽気でしたが、
狂ったように杭打ちマシーンと化し、
汗ブルブルにかきながら測量と杭打ちを完了させ、
一路、埼玉へ飛んだのでした(羽田へ、だけど)。

そこから結構長かった

埼玉に戻った私は、すぐさま
相続土地国庫帰属の承認申請書類の作成に着手。
本件では、土地が2筆あるため、
申請書類も2件に分けて、別々に作成する必要があります。

が、令和4年9月29日更新のブログでも書いたとおり、
対象土地を国庫に帰属させるためには
国有地の標準的な土地管理費相当額10年分の負担金を
国に納める必要があり、粗放的な管理で足りる原野なら約20万円、
市街地の宅地(200平米)なら約80万円が必要になります。

これを本件に当てはめると、土地が2筆あるので、
それぞれに約20万円の負担金がかかってしまうことになるため、
経済効率がよろしくないと言えます。
それを避けるために、隣接する複数筆の土地を1筆の土地とみなして
負担金を算定するよう、「合算の申出」も併せてすることにしました。

但し、本件土地2筆は、隣接しているとはいえ
先述のとおりかなりの段差があり、
双方の土地を直接階段等で行き来できるようになっていません。

この状況でも1筆の土地とみなしてもらえるか否かは
やってみないと分からないものでした。
まあ、駄目で元々、申出て損は無いので
当然「やる」の一択だったんですけど、ね。

ともあれ、申請書類を完成させ、
6月初旬に再び私とYさん及びAさんが一堂に会し、
申請書類についての説明と確認の作業を行い、
問題無し!ということで
書類をまるっと一式、管轄法務局に宛てて発射しました。

それからしばらくして・・・。
お盆になり、夏季休業を満喫していた最中、一本の電話が。
市外局番からして、すぐに管轄法務局からであることが分かりました。

「もしもし・・・」

用件は、なんと、
現地調査ができるようになったものの
雑草が生い茂っていて調査できない。
除草してくれ、との要求でした。

そりゃ、昨今の猛暑ですから
5月に除草したってお盆の頃になれば
ボーボーですよ。
それを慮ってすぐに対処してくれればいいのに
申請から2か月以上も経って、
ボーボーだから刈ってくれ、とは・・・。

言いたいことは色々ありましたが、
休暇明けに即、依頼者さんに電話をして、
もう一度除草してほしい、とお願いしました。

依頼者さんもあきれていましたけれど、ね・・・。
しかし、やらなきゃ先に進まないので
「やる」の一択でございます。
約1か月かけて除草してもらい、
完了した旨の報告を管轄法務局にしたのでした。

その後、何の音沙汰もなく、月日は流れ・・・。
年が明け、GW前になって、
管轄法務局から電話が。

曰く、対象土地2筆の国庫帰属について
承認がなされた、と!
なお、負担金額は合算を認め、
最少額である、と!!

ブラボー!!!

てな訳で、GW明けに管轄法務局から
Yさんのもとに負担金額通知書及び納入告知書が到達。
1か月以内に納付しないと承認が取り消されてしまうため、
すぐに対応してもらったのでした。

かくして、依頼を受けてから
なんだかんだで約1年半の時間をかけて
大団円を迎えたのでした。

それにしても、遠隔地だったとはいえ、
相当時間がかかる手続でございます。

負担金のことも含めて
やっぱり少し使い勝手が悪い感が否めない制度だな・・・
というのが、率直な感想でございます。

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