ブログ 町の法律日記

最初から無理でも有効!

履行不能とは?

今回は、以前に選択債権をテーマにして綴った
「どっちを選ぶ!?」(令和6年9月2日更新)でも少し触れた
「履行不能」について、
令和2年4月1日から施行された改正民法で
何が変わったのかを述べます。

履行とは、契約等で定められた内容を
実行することですが、
その履行が不能っていうのは
どのような場合を指すのか?

旧法では明文の規定が無かったので、
改正法412条の2が設けられました。

(履行不能)
第412条の2第1項
債務の履行が
契約その他の債務の発生原因
及び
取引上の社会通念に照らして不能であるときは、
債権者は、その債務の履行を請求することができない。

つまり、例えば昨今
見かけるようになったと言われる(小川町ではあまり見かけない・・・)
電動キックボード(中古)を
私がネット通販で購入したとします。

この「購入」は「売買契約の締結」であり、
「契約その他の債務の発生原因」に当たり、
販売者は、私に対して
その電動キックボードを引渡すという
「債務の履行」義務を負います。

で、「取引上の社会通念に照らして不能」
例えば、私が購入した中古の「その電動キックボード」が
実は存在しなかった場合、まあ、履行義務を果たせない「不能」
ということになる訳ですが、
その場合、
「債権者は、その債務の履行を請求することができない」
と規定されています。

これが、「履行不能」です。

なお、履行請求権を失ってしまう債権者(私)は
どうなるのか?

【改正点1】無効が有効に

旧法では、履行不能な契約は
「無効」と解されていました。

その変わり、販売者に過失があるなら、
販売者がそんな無効な契約を結んだこと自体に過失責任があるとして、
私は損害賠償請求できる、
というロジックでした(「どっちを選ぶ!?」参照)。

ところが、改正法では、
履行不能な契約を
無効とは考えません。

改正法第412条の2第2項は
次のとおり。

契約に基づく債務の履行が
その契約の成立の時に不能であったことは、
第415条の規定により
その履行の不能によって生じた
損害の賠償を請求することを妨げない。

つまり、履行不能な契約は
有効なものと解して、
第415条(債務不履行による損害賠償)の規定に基づき
損害賠償請求できますよ、
というロジックになりました。

すっきりしたような、
「・・・ん?できない契約も有効??」と
混乱してしまうような。。。

ともかく、無効でなく有効となったことで、
上記電動キックボード(中古)の売買契約を
解除することができますし、
代償請求権なんかも行使できるようになっています。

なお、上記代償請求権の行使(改正民法第422条の2)については、
補填賠償請求権(同第415条第2項)と併せて、
稿を別にして後日詳しく述べる・・・つもりです!

【改正点2】信頼利益が履行利益に

ここで、私が損害の賠償を請求できる
「損害の範囲」は、どこまでなのか?
とギモンを持った方。

そういう方は、私が思うに、
法律を勉強する知的好奇心が旺盛な方でしょうね。
「どうなるの?」
「こうなったら、これについてはどうなるの??」
・・・と、そうやってお勉強していくと
「ああ、法律っておもしろいな」
と思う日が来る・・・かもしれません(知らんけど)。

閑話休題。

損害がどの範囲まで保護されるのか?
というギモンについては、
ちょっと堅苦しいですが、
「信頼利益」と「履行利益」について
触れない訳には参りませぬ。

先のギモンに対する回答は、
「信頼利益に止まらず、履行利益にまで及ぶ」
となります。

どういうことか?

先の例をベースにして、
信頼利益と履行利益を
比較してみましょう。

先の例では、そもそも
当該電動キックボード(中古)は
存在しなかったというものでしたが、
存在はしていて、私は確かに
「その」電動キックボードの引渡しを受け、
代金を支払ったとします。

ところが、「いざ行かん!」
と乗り出そうとしてみたら・・・
あれ?
電動なのに動かない。

ただのキックボードになっている・・・。

詳しい構造を知りませんが、
どうやらモーターが故障している模様。
「その」電動キックボードが
不良品であることが判明しました。

中古でなく新品であれば、
販売者に連絡して別の電動キックボードに
交換してもらえばいいでしょう。

しかし、中古の場合は、
私は「その」電動キックボードの
色のくすみ具合(それをヒトは「味」という)、
吉良上野介のような芸術的な傷跡(それもまた、ヒトは「味」という)、
そして何より、今や生産終了している型であるため
そもそも替えが利かない代物である(「味」以前の問題)、
さまざまな要素が相まって、
私は「その」電動キックボードを購入したのであります。

だがしかし、それもこれも
全て「電動キックボード」として
正常に機能するものと
当然に信じての「購入」だった訳です。

このように、正常に機能するものを
提供されると信じたことについての利益を、
「信頼利益」といいます。

本件における私の信頼利益は、
モーター(と思われる。)が
故障していることによって害されているのですから、
その修理代金相当額になります。

こういうのを「法定責任説」と言います。

一方、「履行利益」であればどうなるか?

履行利益の場合、「契約責任説」と言いますが、
上記の信頼利益に加えて
故障の修理中に利用できないこと等
による利益も含まれます。

例えば、電動キックボードを使えないことで
交通費が発生してしまったならば
その交通費相当額が得られなかった利益(逸失利益)
として含まれる訳ですね。

それだけではありません。

正常な電動キックボードを提供されていれば
得られたであろう利益も含まれます。

例えば、私が「いざ行かん」と
出かけようとした先は
初デートの待合せ場所であり、
電動キックボードが使えないために大遅刻。

「約束を守る、時間を守る、
シンヨウ デキル オトコ」と
思ってもらえる利益が
・・・得られなかった、と。

どんだけの損害だ、という話ですが、
そんな利益も含まれる(?)訳ですね。

という訳で、履行不能の場合、
債権者が保護される利益(法益)が
改正法によって拡大された点は
無視できないと言えます。

今回は、このへんで。

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