ブログ 町の法律日記

変わり続ける相続法(戦前編)

相続に関する法律は何度も変わってきた

今、このブログを書いているこの瞬間にも、
全国のどこかでどなたかがお亡くなりになって
発生しているであろう「相続」。
相続が開始すると、亡くなった方が有していた財産や権利関係が
その時点での相続人の方々に帰属する訳ですが、
誰が相続人になり、その相続人の相続分はどうなるのかをご存じでない方も
少なくはありません。

令和4年の「今」発生した相続については
現在の民法等相続関係法令(以下、まとめて「相続法」といいます。)が適用されるのですが、
例えば戦前に亡くなった方の相続については、
現在の相続法は適用されません。

相続の問題は、その亡くなった方(「被相続人」といいます。)が
亡くなった時点で施行されている相続法が適用されるのですが、
この相続法、過去に何度も改正されているのでややこしい。
民法で、相続人と相続分に関する規定についてだけを見てみても、
(1)明治31年7月15日までに開始した相続
(2)明治31年7月16日から昭和22年5月2日までに開始した相続
(3)昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までに開始した相続
(4)昭和23年1月1日から昭和37年6月30日までに開始した相続
(5)昭和37年7月1日から昭和55年12月31日までに開始した相続
(6)昭和56年1月1日から平成13年6月30日までに開始した相続
(7)平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続
(8)平成25年9月5日から現在までに開始した相続
といったように、何度も改正されているために、
被相続人の死亡年月日が上記のどの期間に該当するかによって
適用される相続法が異なってきます。

令和6年4月1日から、相続を原因とする不動産登記が義務化されますが、
「じゃあ、相続登記をしなきゃ!」と思って対象不動産の登記記録を見てみると、
なんとおじいちゃんだったりひいおじいちゃんの名前が登記されていて、
そのまま現在まで放置されていた・・・というケースがままあります。
そんな時には、上記(2)や(1)の時代の相続法が適用され、
その後数次にわたって相続が発生している訳ですから、
上記(3)から(8)の相続法も複合的に適用して
解決しなければならなくなったりするのです。

なんとも気の重い話ではありますが、
今回は、まず上記(1)及び(2)の期間に発生した相続について、
これをまとめて「戦前の相続法」と表現することとし、
誰が相続人になり、その相続人の相続分がどうなっているのかを
ざっくりと説明します。

明治31年7月15日までに開始した相続

この期間に発生した相続については、
「これが相続法!」と言える程に明確な法規がなく、
当時の慣例や華士族家督法(今は当然無い)、
太政官(二官八省の「官」の一つですね。)布告・達等や
司法省(戦前にあった上記「省」の一つですね。)、法務省等の先例、
大審院(最高裁の戦前版ですね。)や最高裁の判例等々を参考にしつつ
考える必要があります。
が、概ね次の時期、
明治31年7月16日から昭和22年5月2日までに開始した相続
と同じように考える、と言えます。
明治31年7月16日から施行された民法第5編(明治31年6月21日法律第9号)は、
それ以前の慣例等を踏まえたものになっていると考えられるからです。

明治31年7月16日から昭和22年5月2日までに開始した相続

いわゆる「旧法」、「戦前の相続法」と表現される法規が
適用されることになります。

これがどういうものかを詳しく説明すると、
それだけで立派な一冊の本ができちゃうのでは、
と思える程なので、本ブログでは
ざっくり説明する程度にとどめます。

相続人は誰か ~被相続人が戸主の場合~

私は達脇清将と申しますので、
「達脇家」の者でございます。

日本には、今も「家」と表現するものがある訳ですが、
現代の「家族」と、戦前の民法における「家族」では
随分とニュアンスが違います。

戦前のそれは、今でいう「一族」に近い感じでしょうか。
その長を「戸主」といいました。
この「戸主」が、「一族」の面倒をみるようになっていました。

その戸主が亡くなったり隠居したり
入夫離婚したり(他にもありますが割愛!)した場合、
「家督」が相続される、「家督相続」が発生し、
家督を相続した人、「家督相続人」は、
被相続人の財産の一切を相続しました。

ゆえに、家督相続の場合は、
「相続分」という概念はありません。

その家督相続人となる者の優先順位は、以下のとおり。

1 家族である直系卑属(直系卑属とは、当人から見ての子、孫、曾孫等のことをいい、
直系尊属とは、当人から見て父母、祖父母、曾祖父母等のことをいいます。)
〔上記について、親等の近い者(当人から見て子と両親は1親等、
孫・祖父母・兄弟姉妹は2親等)>同親等間なら男子>
同親等の男子間又は女子間なら嫡出子>(以下省略)〕
2 指定家督相続人
3 第1種選定家督相続人(説明省略)
4 家族である最も親等の近い直系卑属(但し、男子優先・・・)
5 第2種選定家督相続人(説明省略)

なお、上記1(最優先順位)の場合には、
代襲相続(例えば当人の子が先に亡くなっている場合にはその子、つまり当人の孫が相続すること)が
無制限に適用(上記の例で玄孫が代襲相続する、とか)されました。

また、戸主の女子と婚姻した夫がその家族となり
(これを「入夫」といい、「入夫婚姻」といいます。)、
婚姻の際に反対の意思表示をしない場合には、
家督相続が発生し、入夫が家督相続人になりました。

相続人は誰か ~被相続人が家族の場合~

あまり多くあるケースでないのですが、
戸主でない方(家族)が不動産等の財産を有しており、
その方が亡くなった場合、
そもそも当該被相続人は家督を有していないので
家督相続は発生せず、「遺産相続」が発生しました。

なお、現在の「相続」と「遺産相続」は異なります。

遺産相続は、当人の死亡によってのみ開始し、
相続人となる者は、以下の優先順位により決定しました。

1 直系卑属(親等の近い者が優先)で、無制限に代襲相続が適用
2 配偶者(代襲相続は適用されません)
3 直系尊属(親等の近い者が優先)で、代襲相続は適用されません
4 戸主で、代襲相続は適用されません

なお、相続分については、
上記1で数人いる場合は各相続分は同じ(例えば2人いれば相続分は各2分の1)であり、
非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1です。
同じように、上記3で数人いる場合も各相続分は同等です。

自分も戸主になりたい!となれば

先ほど、遺産相続はあまり多くない、と述べましたが、
自らの財産を持つような方は、戸主の家族から離れ、
自らが戸主になる(分家する)ケースが結構あったからです。

分家して戸主になった場合、その方が亡くなれば
またその「家」で家督相続が発生します。

その他の主な留意点 ~実親子関係~

戦前の民法特有のものとして、
実親子関係と養親子関係、継親子関係にも触れておきます。

まずは実親子関係について。
実子には、嫡出子と非嫡出子があり、
嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子のことですが、
婚姻成立日から200日経った後に生まれるか
離婚等から300日以内に生まれた子にも嫡出であると推定されました。

非嫡出子には、父に認知された非嫡出子(「庶子」といいます。)と
父に認知されていない非嫡出子(「私生子」といいます。)がありました。
従って、父に認知された私生子は庶子となり、
父母が婚姻することによって嫡出子になりました。

その他の主な留意点 ~養親子関係~

実子とは別に、「養子」という法律上の子があり、
養子は実子と同じ立場にあります。
この養子制度は現在もある制度ですが、
現行の相続法とは異なるところもありました。

養親子関係は、離縁によって終了するのは現在と同じですが、
養子が戸主になった場合には、その者が隠居しない限り
離縁することができない、という規定がありました。

また、離縁しても、養親と養子縁組後に生まれる等した
直系卑属(養親の孫ということになります)との親族関係は
そのまま残り、当該直系卑属が養家(養親の「一族」的な「家」)から
抜け出てはじめて、
養親(及びその血族)と養子だった者の直系卑属の親族関係が消滅しました。

その他にもいろいろありますが、
旧法の家制度についてがっつり述べないと理解しづらい規定が
多々ありますので、ここでは割愛することとします。

その他の主な留意点 ~継親子関係~

継親子関係については、
まさに旧法独特の「家」制度というものの存在を
顕著に表しているものといえましょう。

現在も継親・継子は多々存在する訳ですが、
血の繋がりがないために、
現行法で継子が継親の相続人になるためには
養子縁組をして法律上の親子関係になる必要があります。

しかし、旧法では、
継親子は実親子間におけるのと同じ親族関係であり、
1 継親となる者は、継子の親(実母・養母・継親を問いません。)の配偶者であること。
2 継子が配偶者の子(嫡出子・養子・庶子を問いません。)であること。
3 継親と継子が同じ「家」に入っていること。
上記の3要件を満たすと成立しました。

ゆえに、養親子では、年長の者が年少の者の養子になることは
旧法でも認められていなかったのですが、
継親子では、継親より継子の方が年長ということもありました。

結びに

今回は、戦前の相続法について
ざっくりご紹介しました。

やはり戦前の相続法については
当時の家制度、家督制度の概念・価値観が
現代とは随分異なるため、分かりにくいところがあります。

次回は、戦後の相続法についてご紹介しますが、
今回のように取っつきにくいものでないことは保証します!

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