ブログ 町の法律日記

司法書士の筆界特定業務とは?

司法書士業務か、土地家屋調査士業務か

皆さん、こんにちは。
司法書士 土地家屋調査士 行政書士 おがわ町総合法務事務所の達脇です。
今回は、当事務所の業務内容の紹介第7弾、「司法書士業務編」筆界特定についてご紹介します。
なお、「司法書士業務編」と言っておきながら何ですが、筆界特定は、土地家屋調査士も扱っている業務です。というか、筆界特定という業務の性質上、むしろ土地家屋調査士こそが主業務として扱っていると言えます。
私(当事務所)は、司法書士と土地家屋調査士を兼業していますので、どちらの業務かを考える実益はありません。しかし実際には、扱える業務の範囲に違いがあり、それについては本稿の最後に説明することとします。

筆界特定とは?

まず、「筆界特定」とは何でしょうか。ざっくり言うと、筆界特定とは、隣接する対象土地AとBがあった場合、そのA地とB地の原始的な境界がどこなのかを特定することです。

わが国には、昔から土地がある訳ですが(当たり前・・・)、明治の初期まで、現在の「地番」というものはありませんでした。近代になり、土地(不動産)も財産であり、その財産を誰が所有しているのかを国が把握するため、土地に境界線を引き(地租改正事業です。)、一筆一筆(不動産の単位を「筆(ふで)」と言います。)に地番を付され、現在に至っています。ちなみに、「地番」とは、法務局(=法務省)が管理しているものであり、自治体が管理している住居表示(いわゆる「住所」)とは一致することもあれば異なることもあり、要するに別概念のものです。
上記のように設定された境界は、何ら感情等を介入させる余地の無い客観的な存在であり、誰も動かすことができない所有権の対象として特定された土地の区画線です。これを、国が定めた境界ということで「公法上の境界」=「筆界」と言います。

一方で、長い年月を経るうちに土地の所有者が変わっていき、隣人間の権力・経済力等の差、囲障の設置、土地利用形態の変化等によって、境界線は人為的に改変・変動され、公法上の境界(筆界)とは異なる現況上の境界が形成されるに至りました。この境界を「私法上の境界」=「所有権界」と言います。

ゆえに、原始的(地租改正当時)には、公法上の境界と私法上の境界、言い換えれば筆界と所有権界は一致していたと考えられるのですが、現在では一致していないことが珍しくなく、隣人間でA地とB地の境界がどこなのかで主張が対立し、紛争にまで発展するケースが多々あるのです。筆界特定手続は、筆界と所有権界を明確に区分し、筆界(公法上の境界)を特定するべく管轄の法務局に申請するものです。

筆界特定手続と境界確定訴訟の関係

筆界特定手続は、平成18年1月20日から施行された制度であり、比較的新しい手続と言えます。
一方で、古くから境界の紛争があった場合の解決手段として境界確定訴訟が存在していました。両者の関係は、どのようなものでしょうか。
筆界特定は、先述のとおり原始的な公法上の境界を特定するものですが、特定されたからといって全て解決、という訳でなく、結論付けられた筆界特定書に基づき、地図の訂正や地積更正登記(専門職は土地家屋調査士)をすることになります。ということは、特定の結論に満足している人もそうでない人も上記事後手続をする必要があり、費用もかなり嵩むことから、すんなりと問題が解決しない場合も考えられます。
ここで、「費用をかけて手続をしたのに問題が解決しないんだったら、やる意味が無いじゃないか」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、筆界特定は無意味な手続ではありません。上記筆界特定の結論に不満がある場合や、そもそも当事者間で紛争になっている場合には、境界確定訴訟を起こすことになりますが、その訴訟において、当該筆界特定書は非常に有力な証拠方法になります。筆界特定をせずに境界確定訴訟を起こした場合には、まず筆界特定をするように求められることもあるでしょう。境界確定訴訟は、形式的形成訴訟に分類されており、要は裁判所の裁量で結論を出さなければならない類のものです。判事としても、自身の裁量で境界を確定させる訳ですから、「えいやあ!」と判断するのは避けたいと考えるのが人情というもの。法務局が判断した筆界特定書があれば重宝するのは当然のことでしょう。
当事者間で紛争がなければ、筆界特定という行政手続のみで済みますし、紛争があれば境界確定訴訟という司法手続を行う。但し、境界確定訴訟においても筆界特定は必要になる。両者はそういう関係にあります。

筆界特定手続に係る代理権の範囲

本稿の冒頭で、司法書士と土地家屋調査士では、筆界特定手続について扱える範囲に違いがある、と述べましたが、結びにその相違点について説明します。
土地家屋調査士の場合は、いかなる場合も筆界特定手続について代理することができます。
一方、司法書士の場合は、本ブログの記事「司法書士の簡裁訴訟代理業務とは?」(令和3年11月19日更新)において取り上げた「簡裁訴訟代理権」の範囲内である場合に、筆界特定手続の代理をすることができます。簡裁訴訟代理権は、紛争の価額が140万円を超えない範囲において認められている・・・ということは、ほとんど代理権の範囲外じゃないか!・・・と思われるかもしれませんが、さにあらず。結論から言うと、土地の価格5600万円までなら簡裁訴訟代理権の範囲内、ということになります。筆界特定は、司法書士の代理権の範囲を分かりにくくさせている好個の例と言えるでしょう。

では、なぜ「5600万円」が「紛争の価額140万円」とイコールになるのか?
A地とB地の筆界特定をする場合、まず、対象土地(A地とB地)の固定資産評価額を合算します。
仮に、A地の評価額が2500万円、B地の評価額が1500万円だったとすると、合計で4000万円ですね。
次に、土地の「紛争の価額」は固定資産評価額の2分の1と計算されますので、2000万円(4000万円×1/2=2000万円)となります。
そして、筆界特定の場合、100分の5を乗じる(法務省令で定められた割合)こととされていますので、100万円(2000万円×5/100=100万円)となります。
よって、A地2500万円、B地1500万円の筆界特定における紛争の価格は100万円となり、司法書士の代理権の範囲内、となります。
上記に基づき、司法書士の簡裁代理権の上限を求めると、140万円(紛争価格の上限)÷5/100(法務省令)÷1/2(土地だから)=5600万円(対象土地の合計額)となるのです。

まあ、当事務所の場合、司法書士業務も土地家屋調査士業務も扱っていますから、関係無いんですけれど、ね・・・。
以上、筆界特定についてでした。

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