ブログ 町の法律日記

司法書士の成年後見業務とは?

日本は世界一の超高齢社会

皆さん、こんにちは。
司法書士 土地家屋調査士 行政書士 おがわ町総合法務事務所の達脇です。
今回は、当事務所の業務内容の紹介第6弾、「司法書士業務編」成年後見等についてご紹介します。なお、今回の成年後見等業務については、司法書士の本来業務とされるもの(独占業務として第1弾から第5弾の記事でご紹介しました。)とは異なり、理屈上、原則として誰でも行うことができます。しかし、誰でも行えるからといって、法令に何の根拠も無く業として扱うというのはよろしくないため、きちんと根拠条文を挙げておきます。
まず、司法書士法第29条第一号に、「法令等に基づきすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める業務(以下略)」との文言があり、この「法務省令で定める業務」として、司法書士法施行規則第31条に以下のとおり定めがあります。
「一 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務
二 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類する地位に就き、他人の法律行為について、代理、同意若しくは取消しを行う業務又はこれらの業務を行う者を監督する業務
(三~五 省略)」
上記の規定を根拠条文として、すべての司法書士が成年後見等業務を行えることになっています。

現在、日本は世界に類を見ないペースで高齢化が進んでいます。65歳以上の方を高齢者として、その高齢者が国内の人口に占めている割合が7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、そして21%を超えると超高齢社会と言われますが、わが国はなんと、令和3年9月15日現在で過去最高の29.1%を記録し、世界201の国と地域の中でトップとなっています(データ引用 令和3年9月19日 総務省統計局「統計トピックNo.129」1頁目)。その受け皿ともいえる成年後見制度は、まさに国民一人一人にとって年々身近なものになっていると言えます。

ご本人の権利擁護と残存能力の活用

まず、成年後見制度について簡単にご説明します。この制度は、当事者(以下、「ご本人」といいます。)の判断能力が低下した場合や、精神疾患等により判断能力が先天的に十分でない場合等において、ご本人の権利を擁護し、その方の残存能力を極力活用できるようにするために設けられたものであり、家庭裁判所(以下、「家裁」といいます。)に対して成年後見等の開始申立てを行います。申立てをすることができる人は、本人(実務上、後見の場合、本人は申立人になれません)、配偶者、四親等内の親族、地区町村長等です。申立人は、申立てをするにあたり、主治医に成年後見制度用の診断書を作成してもらい、その診断結果に基づいて、ご本人の判断能力が次のどの類型に該当するかを考えます。
(1)成年後見・・・「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(民法第7条)
(2)保佐・・・「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」(民法第11条)
(3)補助・・・「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」(民法第15条第1項)
但し、上記(1)~(3)に該当しないケースとして、任意後見制度というものもありますが、これについては、また別の機会に、ということで。

上記申立ては、ご本人の住所地を管轄する家裁に対して為しますが、当該申立書類を作成できる専門職は、司法書士と弁護士のみです。家裁は、調査員がご本人や申立人等から事情の聴き取りをする等して申立書類の内容を精査し、適当と認めれば、ご本人に成年後見(又は保佐又は補助)開始の審判を出します。その際、ご本人には上記(1)~(3)の類型に応じて、法定代理人として成年後見人(ご本人は成年被後見人)、保佐人(ご本人は被保佐人)、補助人(ご本人は被補助人)が選任されます。

法定代理人~成年後見人・保佐人・補助人~

では、「法定代理人」とは何なのか、その法定代理人である「成年後見人」「保佐人」「補助人」とは、どのような権限がある人のことなのかについて、ざっくりとご説明します。
まず、法定代理人とは、「法律」で「定められた」代理人です。「代理」は、「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。」(民法第99条)と規定されています。つまり代理人とは、本人の代理人であることを告げたうえで(顕名といいます。)本人の代わりにさまざまな法律行為等を為す人のことです。但し、法定代理人の場合、ご本人が代理人になってほしい人に代理権を授与するのでなく、法によって代理権が付与されます。成年後見人、保佐人、補助人は、法の定めるところにより、家裁によって選任(代理権が付与)された代理人なのです。そのことがあまり世間に知られておらず、成年後見人、保佐人、補助人が各種手続等を為す際、ご本人からの委任状の提出を求められたりすることがあるのですが、そもそもご本人の判断能力上の都合で家裁が法定代理人を選任しているのですから、委任状は不要なのです。成年後見人、保佐人、補助人が、自らが代理権限がある者であることを証する書面は、その旨が記載された法務局発行の登記事項証明書か、家裁の選任審判書及び確定証明書になります。

成年後見

成年後見が開始すると、ご本人は「成年被後見人」となり、成年後見人が選任されます。成年後見人の主な代理権は、ご本人の身上監護権限及び財産管理権限です。ご本人は、上述のとおり事理弁識能力を欠く常況にあるため、成年後見人はご本人の身上監護や財産を適正に管理するために必要な行為の一切を代理人として為すことになります。但し、何でも行っていいという訳でなく、財産の運用等は原則的に求められていませんし、居住用不動産の処分等重要な事項については別途家裁からの許可等が必要になります。あくまで、ご本人の財産等を保全すること、権利を擁護することが主目的です。なお、後述する保佐や補助においても同じことなのですが、成年後見等が開始したら、原則として、ご本人が天寿を全うするまで成年後見人が上記業務を行うことになります。成年後見を開始するきっかけが、例えばご本人が相続人の一人で成年後見人を付けないと手続ができないからとか、施設との入所契約をするうえで成年後見人を付けるよう求められたからとか、その時必要に迫られて、というケースで開始するのが大半ですが、一度開始すると、上記手続が完了したから成年後見終了、ということにはなりませんので、注意が必要です。

保佐

保佐が開始すると、ご本人は「被保佐人」となり、保佐人が選任されます。保佐人は、民法第13条各号に規定されている事項、例えば、借財又は保証(二号)、不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為(三号)、相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割(六号)等、ご本人にとって重要な意思表示にあたる事柄について同意する権限が付与されています。その他、保佐開始申立時に、ご本人が特に保佐人に対して代理権を付与することに同意した事項に限り、保佐人はご本人の法定代理人として代理権を行使します。

補助

補助が開始すると、ご本人は「被補助人」となり、補助人が選任されます。補助人は、保佐人に自動的に付与される上記民法第13条各号に規定されている同意権につき、補助開始申立時に、ご本人が補助人に対して付与することに同意した場合に限って行使することができます。代理権については、上記保佐同様、補助開始申立時に、ご本人が特に補助人に対して代理権を付与することに同意した事項に限り、補助人はご本人の法定代理人として代理権を行使します。なお、補助開始申立てについては、ご本人でない人(例えば四親等内の親族等)が申立人になる場合、その申立てをすること自体にご本人の同意がなければなりません。

一事件のスパンが長いので、利用は慎重に

ここまで、成年後見制度(成年後見、保佐、補助)について簡単にご説明しました。先述のとおり、成年後見であれ、保佐であれ、補助であれ、ひとたび開始すると原則的にご本人が天寿を全うされるまで続きますので、制度を利用する際は、注意が必要です。制度利用が必要になった場合であっても、ご本人に判断能力が残っている場合は十分にご本人の意向を聴取・尊重し、そうでない場合には、申立てをする方が十分に検討する必要があります。
また、成年後見人、保佐人、補助人については、各開始申立時に、申立書に候補者を記載することができますが、実際にその候補者が選任される保証はありません。家裁が、個別具体的に、当該候補者が適当か否かを判断しますから、「アテが外れる」結果になることも十分にあり得るのです。申立人やご本人が希望する候補者が成年後見人(又は保佐人又は補助人)に選任されなかったからといって、開始申立てそのものを取り下げることもできません。成年後見人、保佐人、補助人に選任されている専門職としては、現時点では司法書士が最も多くなっています。制度の利用を検討される際は、一度、成年後見の経験が豊富な司法書士に相談なさるのがいいでしょう。

次回は、本稿では書ききれなかった「任意後見等」について綴りたいと思います。

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