ブログ 町の法律日記

共有土地問題に一筋の光!

所有権不明土地関連法その2

今回は、前回に続き、
令和3年4月21日に成立して同月28日に公布された
「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)及び
「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)
(上記をまとめて「所有権不明土地関連法」といいます。)について、
令和5年4月1日から施行される
「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)に絞って
ご紹介することとします。

なかでも、私がある程度期待しているのは、
共有制度の見直し規定です。

これまでも、依頼者の方から、
ある不動産について共有名義にする不動産登記を依頼された場合、
「共有」というのは、今はよくても、
単独所有と比べて、後にさまざまな問題が発生する可能性があるため、
できるだけ避けた方がいい、と助言することがありました。

不動産の場合、例えば所有権登記名義人が亡くなると
いわゆる相続登記が必要になりますが、
共有名義になっている一部の方の相続人が相続登記をしていないと、
途端にその土地の管理や売却等処分をする際に支障を来します。

新規で共有にするのでなくとも、
随分前に共有名義で登記された不動産がある場合、
その各共有者の子孫が当該不動産を処分等したい
(あるいは共有状態から抜け出したい)と考えても、
共有者の中に所在不明等の方がいらっしゃると、
処分するためには時間と労力と費用がかなりかかる各種法的手続ことになってしまい、
くじけてしまう(しかも当該不動産は管理不全の状態)、
ということも珍しくありませんでした。

今回の「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)は、
上記のような共有問題を抜本的に解決するための法改正でないため、
冒頭に「ある程度期待」と述べましたが、
それでも、従前と比べれば
共有問題を解消するための一助になると考えます。

では、どのような法改正がなされたのか?
以下で見ていきましょう。

令和5年4月1日施行の不動産利用関連規定

所有権不明土地関連法の立法趣旨は、
前回も述べたとおり、当該不動産の所有者が誰なのかが
分からなくなる事態の発生を予防することと、
当該不動産を利用しやすくする、ということです。

今回ご紹介する規定は、
上記のうち、主に不動産を利用しやすくする、
という目的に適うものになっています。

共有制度の法改正

まずは、先述のとおり、
共有制度の見直しがなされた部分について
見ていきましょう。

法改正の狙いは、共有者が生きているのか、死んでいるのか、
どこで生活しているのか等全く分からないがゆえに
管理不全に陥っている共有不動産の利用を円滑に行えるようにする、
というところにあります。

共有規定は、従前の民法(現在施行中の民法ですが。)では
「第二編 物権」の「第三章 所有権」、
「第三節 共有」に第249条から第264条がありました。

改正法では、既存の条項に変更を加える
(第249条、第251条、第252条、
第252条の2、第258条、第258条の2、
第262条の2、第262条の3、第264条)
と共に、
「第四節 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令
(第264条の2から第264条の8)」及び
「第五節 管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令
(第264条の9から第264条の14)が新設されました。

が、逐一紹介するのもどうかと思うので、
本ブログではかなり絞って見ていきます。

上記の「法改正の狙い」で述べたような事案では、
これまでであれば、所在等が不明な共有者のために
一般的には管轄家庭裁判所に対して不在者財産管理人選任申立て
又は失踪宣告の申立てを行って・・・と、面倒な法的手続を順を追って
行わなければなりませんでした。

そこで、以下の条項が新設されました!

(所在等不明共有者の持分の取得)
第262条の2 不動産が数人の共有に属する場合において、
共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、
裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において
「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。
この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、
所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
(第2項及び第3項省略)
4 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、
所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を
請求することができる。

私は、上記第262条の2(新設)の規定は
そこそこ使えると思っています。

人生100年時代、所在等不明共有者は、
以前より多くなっているかもしれません。
住民票記載上の住所は存する共有者であっても、
例えば精神疾患等により長年入院している方(住所地に生活実態が無いですね)、
施設に入所しているけれども住所を移転していない方、
そもそも失踪等何らかの理由で長きにわたって生活実態が無いために
自治体の職権で住民票から消除されてしまった方等々、
所在等不明共有者は結構いらっしゃるものです。

そんな場合に、当該不動産の共有者が
裁判所(但し、非訟事件なので地方裁判所が管轄)に申し立てることによって、
当該所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得できるようになるのです。
その分、所在等不明共有者は、財産上の損害を被ることになりかねないので、
持分を取得した共有者に対して、その持分の時価相当額の支払を
請求できることになっています。

となると、持分を取得した共有者は、いつ所在等不明共有者から
支払請求をなされるか分かりません。
そこで、裁判所から申立人(共有者)に対して、
一定の期間内に所在等不明共有者のために
裁判所が定める額の金銭を供託させる旨の命令が出され、
申立人は上記期間内に管轄法務局で供託することになります。

その他、同じく裁判所の関与のもとで、
所在等不明共有者に対して公告等をしたうえで
他の共有者の同意により、
共有不動産の変更行為や管理行為ができるようになる制度も
創設されました(第251条及び第252条)。

塩漬けにされた遺産分割の見直し

所在等不明共有者の中には、
登記された時期を考えるともうお亡くなりになっていることが
確実と思われるケースがあります。

共有で問題が発生しやすい事案として、
所在等不明共有者の相続人たちが、全く遺産分割等相続手続をしようとせず、
それゆえに当該不動産の管理に支障を来す場合があります。
上記のような問題を解消するための一助となり、
遺産分割長期未了状態の解消を促進するために制定されたのが、
この法改正ということになります。

共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、
又は協議をすることができないときは、
その分割を裁判所に請求できる(第258条)のですが、
通常、共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合
(共有者が亡くなって相続が開始している場合)において、
共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、
当該共有物又はその持分について、裁判所に分割請求ができません(第258条の2)。

しかし、上記のように共有物の持分が相続財産に属する場合であっても、
その相続開始の時から10年を経過した(要するに塩漬けになっている。)ときは、
当該持分について裁判所に分割請求することができます。

但し、上記塩漬けになっている持分に係る相続人が、
家庭裁判所に遺産の分割請求をし、
かつ、裁判所から分割請求があった旨の通知を受けた日から2か月以内に
裁判所に対して当該共有物の持分を分割することに異議の申出をしたときは、
やっぱり分割することができません(第258条の2第2項及び同第3項)。

不動産の管理制度を創設!

現在施行されている法制度では、
所有者不明不動産の管理等をするために
不在者財産管理人(行方不明の方の財産を管理する者)や
相続財産管理人(亡くなった方の財産を管理する者)を
家庭裁判所から選任してもらい、
当該財産管理人に、対象者の不動産に限らず
債権・債務を含む全ての財産を管理してもらう必要があったため、
効率的とは言い難いものでした。

また、不動産の所有者が判明していても、
適正に管理されないことで景観・防犯・防災上問題があるケースが多々あり、
マスコミを賑わしたりしています。

そこで、これまでの財産管理制度の見直しが行われ、

所有者不明土地・建物の管理制度
「第四節 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令
(第264条の2から第264条の8)」
及び
管理不全土地・建物の管理制度
「第五節 管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令
(第264条の9から第264条の14)」
が創設されました。

なお、私見ですが、
所有者不明土地・建物の管理制度が創設されてよかったな、
と実感できるのは、これまで不在者財産管理人を必要とした事案でなく、
相続財産管理人を必要とした事案であろうと考えます。
理由を説明すると少々長くなるので、述べませんが・・・。

ともあれ、所有者不明土地・建物の管理制度では、
裁判所が、利害関係人の請求によって、
当該不動産の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない
(数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、
又はその所在を知ることができない共有持分)について必要があると認めるときは、
利害関係人の請求に係る不動産又は共有持分を対象として、
所有者不明土地(又は建物)管理人による管理を
命ずる処分をします。

上記管理命令の効力は、所有者不明土地管理命令であれば、
その対象とされた土地(共有持分を対象として管理命令が発せられた場合は、
共有物である土地)にある動産(当該土地の所有者又は共有持分を有する者が
所有するものに限る。)にも及びます。
また、所有者不明建物管理命令であれば、
その対象とされた建物(共有持分を対象として管理命令が発せられた場合は、
共有物である建物)にある動産(当該建物の所有者又は共有持分を有する者が
所有するものに限る。)だけでなく、
当該建物を所有し、又は当該建物の共有持分を有するための建物の敷地に関する権利
(賃借権その他の使用収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、
対象建物の所有者又は共有持分権利者が有するものに限る。)にも及びます。

一方で、管理不全土地・建物の管理制度は、
所有者がちゃんといるものの、
当該不動産を管理せずに放置していることで
他人の権利が侵害され、又は侵害される虞がある場合に、
その適切な管理を可能とするため、
やはり利害関係人の請求によって
裁判所が管理人を選任して管理を命じる、というものです。

但し、上記管理人による管理不全土地等の管理に必要な費用及び報酬は、
管理不全土地等の所有者の負担とすることとなっているのですが、
すんなりと報酬が支払われるものなのか、疑問が残ります・・・。

相隣関係についての規定を見直し

例えば居住用の家を建てた場合、
その建物だけがあっても、水もガスも使えないのであれば、
なかなか居住の用に供する建物とは言えないでしょう。

上記のようなライフラインは、
場合によっては他人の不動産の地中に導管が埋設されており、
そこから分岐させて自己の土地に引き込んだりする必要があります。

今までは、ライフラインの導管等を
隣地等に設置することについての根拠規定が無く、
隣人から分岐の承諾を得る等が求められたのですが、
その隣人が所在不明だったなら・・・等、
土地を利用するうえで支障を来す事案がままありました。

そこで、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、
又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給
その他これらに類する継続的給付を受けることができないときは、
継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、
又は他人が所有する設備を使用することができる(第213条の2)等の規定が設けられ、
土地の利用を促進できるよう、ライフラインの設備設置権等の規律が整備されました。

結びに

今回ざっと(といっても長い・・・。)ご紹介したように、
令和5年4月1日からは、
共有制度、
相続(遺産分割)、
不動産の管理制度、
相隣関係の各見直し等がなされた不動産利用関連規定が
施行されます。

これまで解決が困難だった事案が、
少しでも多く解決されるようになることを期待します。

次回は、
「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)
についてご紹介します。

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