ブログ 町の法律日記

保証意思宣明公正証書が必要?

改正債権法の施行から早3年・・・

早いもので、主に民法の第3編・債権が改正され、
いわゆる「改正債権法」が施行(令和2年4月1日)
されてから3年が経過しました。

今さらな感じが否めないものの、
今後はしばらく、この「改正債権法」について
主に綴っていこうと思います。

と、ここで心機一転、
今までのやや硬め(?)なスタンスを改めて、
ゆる~く書いていこうと思っていますので、
改めて宜しくお願いします。

さて、改正された債権法規を含む民法の規定は、
長~い間、大幅な変更がなされずに運用されてきました。

私のような人間には、それはそれで親しみがあって良かったのですが、
規定されている条文の「行間」とでも言うんでしょうかね、
長い年月の間に積み上げられた「判例」や
学者さんたちの研究による「通説」とか「有力説」の解釈が加わり、
「ここに規定されている『●●●』という文言は
こう解釈するべき」とか
「この規定は具体的にはこういうことを言うんだよね」とか
法律に携わる職の人間しか分からないものになっていた、と。

それを、ここらでもっと分かりやすいものに改めよう、
国民に分かりやすい法律にしよう、
あるいは新たな規定を設けちゃおう、
はたまた「この規定は不要になったよね」「今の時代には合わないよね」
ということで削除しよう、
ってな具合にいろいろと新設・変更・削除された。

改正債権法は、そういう流れの中で出来上がり、
施行されました。

3年前だけれど・・・。

「保証意思宣明公正証書」の前に

今回のお題である
「保証意思宣明公正証書」は、
改正債権法で新たに設けられたものになります。

これが今、かなり活用されていまして、
公証役場は相当忙しくなっていると思われるのですが、
「保証意思宣明公正証書」について説明するには、
まず、そもそも「保証」って何か?
ってことに触れなければなりませぬ。

「保障」でなく、「保証」。

それは、例えば次のようなケースで利用される
法律行為、「契約」です。

保証契約について

私(司法書士)には、妻と3人の娘がいます。
現在、チョージョが中学生ですので、
子らは皆、未成年です。

子らも成長し、今住んでいる賃貸物件が手狭になってきたので、
よし、ここらで思い切ってマイホームを買おう(既にありますが・・・)!
と決意しました。

で、気に入った物件の価格を見てみると、
5000万円・・・。
・・・先立つものがない・・・。

となった場合、
金融機関から5000万円を借りるべく(全額借りるのかよ!)
審査を受けて、
通ったらめでたく融資がなされ、
その借りたお金で気に入ったマイホームを購入する、
というのが一般的な流れでしょう。

ここで、金融機関と私との間には、
弁済期を定めてお金の貸し借りを行う
金銭消費貸借契約
というものを締結します。

金融機関は貸主であり、5000万円の債権者。
私は借主であり、5000万円の債務者です。

が、上記のように、5000万円もの大金を
なんの担保等も取らずに貸してくれる金融機関は稀有でしょう。
私が余程の大口預金者で金融機関のお得意様ならいざ知らず。

通常は、債務者である私が債務を弁済できなかった場合に備えて、
保証人をつけることになります。

なお、別途「抵当権」という担保物権を設定することにもなりますが、
それについては割愛します。

保証人は、
私が債務を弁済できなかったときに、
私に代わって債権者にお金を支払う人のことです。

住宅ローンを組むための保証人には、
配偶者がなることも少なくありません。

子3人が成人で、稼ぎがあるのなら別ですが、
チョージョが中学生では保証人になれません。

もう中学生ならぬ、
まだ中学生、です。

すみません。

ともあれ、保証人を立てるとすれば、
妻をおいて他にはいません。

私の妻が、金融機関との間で、
私(「主債務者」といいます。)の債務を保証する
「保証契約」を締結し、
私が残債務3000万円を支払えない~等となれば、
耳をそろえて3000万円、金融機関に支払う「保証債務」を
負うことになります。

しかも、住宅ローンの保証人も、賃貸物件の保証人も、
ただの「保証人」ではありません。
実社会ではほとんど例外なく、
「連帯保証人」です。

保証契約上の保証人は、
債権者から3000万円支払って!と請求された際、
「いや、まずは主債務者に請求して」とか
「いやいや、主債務者はお金を持っているから
ちゃんと調べてよ」と主張して、
請求に抗う権利を有しています。

が、「保証」の頭に「連帯」が付くと、
上記のように抗うことが全くできません。

いきなり債権者から保証債務の履行を請求されても、
応じざるを得ない・・・。
それが、「連帯」という特約が付いた「保証」で
「連帯保証」というものです。

なお、保証人が債権者に弁済した場合、
その保証人は主債務者に対して
「あなたのために3000万円支払ったんだから、
私に3000万円支払いなさいよ」
と請求できます(求償権)。

が、主債務者はお金が無くて弁済できなかったのですから、
すんなり払ってもらえないのは想像に難くありません・・・。

保証人のリスク回避のために

どうでしょう?

よく、「保証人にだけは、なるな」
と言われるのが分かるくらい、
保証人のリスクは高いものといえます。

先程の例では、
保証人が妻だったから
良かったようなものの(離婚するかもしれませんが)、
家族でも親族でもない第三者が
「知人が『保証人になってくれ』って言うもんだから・・・」
というような動機で保証人となり、
保証債務の履行を求められたら、
その保証人もその家族も散々な目に
あってしまう訳です。

保証契約のリスクを回避するために、
保証人の被害をなるべく予防するために、
これまでにも、
保証契約は書面で為さなければ効力を生じないようにする、
といった改正はされてきましたが、
まだまだ保証人保護の観点から不十分だ!
という指摘が根強くありました。

で、今回の改正債権法で新設されたのが
そう、
「保証意思宣明公正証書」の規定です。

どんな場合に公正証書が必要?

保証人を保護する必要がある一方で、
「保証契約」そのものの有用性もまた認められるので、
民法から保証関係法規を削除する訳にもいきません。

先程の例でも、
私が5000万円もの大金を借りるにあたって、
金融機関としては(抵当権は別として)保証人が欲しいのに
保証契約が結べないとなれば、融資を躊躇しかねませんし、
私としても、赤の他人ならいざ知らず、
身内の者が保証してくれると言っているのに
保証契約を結んでもらえない、融資を受けられない
となれば、それはそれで困る訳です。

保証人の保護と、
債権者・債務者の事情。

「保証意思宣明公正証書」の規定は、
そんな悩ましい二律背反を解決するための
「落としどころ」と言えなくもない。

具体的には、上述の例では、
改正債権法でも、私は従前どおり、
金融機関との間で金銭消費貸借契約を締結し、
金融機関と妻との間で(連帯特約付き)保証契約を締結することで、
金融機関から融資を受けられます。

しかし、
「私」は「司法書士(兼土地家屋調査士兼行政書士)」としての顔も
持っています。

改正債権法では、「私」が「司法書士」として、
事業のために融資を受ける場合には、
事情が異なってくるのです。

例を挙げて見てみましょう。

司法書士としての私が、事業のために金融機関から融資を必要とした場合で、
私の事務所で勤務している妻(補助者)が保証人になるのであれば・・・。

・・・・・・。

従前の民法の規定により、
普通に金銭消費貸借契約及び保証契約を
締結するだけでOKです。

では、司法書士としての私が、事業のために金融機関から融資を必要とした場合で、
私の事務所で勤務していない妻が保証人になるのであれば・・・。

・・・・・。

金融機関と妻との間で締結する保証契約は
無効です!

上記の保証契約を有効にするためには、後述する
「保証意思宣明公正証書」が必要になります。

ではでは、
司法書士としての私が、事業のために金融機関から融資を必要とした場合で、
「株式会社ENGLISH教室」の代表取締役をしている妻が、
「株式会社ENGLISH教室」を保証人として保証契約を締結するのであれば・・・。

従前の民法の規定により、
普通に金銭消費貸借契約及び保証契約を
締結するだけでOKです!

じゃあ、私が司法書士事務所(個人事業)を司法書士法人に変えて(法人成り)、
その司法書士法人が、事業のために金融機関から融資を必要とする場合で、
司法書士法人の代表社員である私が保証人になるのであれば・・・。

・・・・・。

従前の民法の規定により、
金融機関と司法書士法人とで金銭消費貸借契約を締結し、
金融機関と私とで保証契約を締結するだけでOKです!

・・・どういうこと?

要するに、改正債権法では、
事業のために負担する貸金等債務を主たる債務とする
保証契約等の場合で、

●主債務者が個人であれば、
保証人になろうとする者が主債務者の配偶者や共同事業者(法人を除きます。)であったり、

●主債務者が法人であれば、
保証人になろうとする者がその理事、取締役、執行役等
(詳細は割愛しますが)支配力が強い立場にある場合、

これまでどおり、保証契約を締結してOK、
ということになります。

一方で、上記と異なる立場の人が保証人になる場合は、
後述する「保証意思宣明公正証書」の手順を踏まなければ、
当該保証契約は無効になってしまうのです。

「保証意思宣明公正証書」の手順

「保証意思宣明公正証書」は、
公証役場で公証人に作成してもらうものです。

上記の例の一つ、
司法書士としての私が、事業のために金融機関から融資を必要とした場合で、
私の事務所で勤務していない妻が保証人になる場合で考えてみましょう。

妻は、金融機関との間で保証契約を締結する日の
1か月前までに、私の貸金等債務について、
保証債務を履行する意思表示を公正証書で
なさなければなりません。

そのためには、
保証契約締結の1か月以上前、
できれば2か月くらい前に、
妻が、自身と私の各身分証明書の写し、
妻の印鑑登録証明書、
私の貸金等債務に係る契約書(案)等資料、
保証意思宣明書を用意して、
公正証書を作成してほしい公証役場に
上記資料一式を提供し、
一度、公証役場に赴く必要があります。

上記保証意思宣明書には、
予め主債務者から、保証人になろうとする者に対して、
主債務者の財産及び収支の状況、本件主債務の他に負担している債務の有無とその額及び履行状況、
本件主債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときはその旨及びその内容
に関する情報を提供したうえで、

●上記情報提供を受けた旨
●債権者の住所(本店)、氏名(商号等)
●主債務者の住所、氏名
●保証債務の内容(貸金等の元本、利息、違約金、損害賠償、その他保証すべきものの定め)
●主債務者が債務を履行しないときには、その債務の全額について履行する意思の表示

を書き込んでおきます。

1回目の公証役場訪問時、
上記についての確認等を行い、
後日、再び公証役場にて
公証人が、保証人になろうとする者に対して、
原則的に保証意思宣明公正証書の内容について読み聞かせ等を行い、
保証人になろうとする者が、当該公正証書に署名押印を行います。

ここまでを保証契約締結の1か月以内に行って、
できあがった公正証書を債権者に提供します(まずコピーでOKです)。

保証契約締結の時期がずれ込み、
上記公正証書の作成日が1か月超も前のものになってしまった場合は、
再び上記の手順を踏むことになります。

如何でしょうか?

・・・めんどくさ!

と思う方も少なくないのではないでしょうか。

何だか、あちらを立てればこちらが立たず、
ではありませんが、
リスク回避を考えれば考える程、
時の流れが速まっている現代の感覚と
かけ離れた法改正がなされていっている感が否めない・・・。

そう感じる、今日この頃です。

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