ブログ 町の法律日記

令和の改正相続法(遺言編)

見直された遺言制度

前々回と前回で、相続に関する法律において規定されている
相続人と相続分について、
時代とともにどのように変わってきたかを
つらつらと述べました。

今回は、今さら感が否めないのですが、
原則的に令和元年7月1日に施行された改正相続法のうち、
遺言制度について、ざっくりと述べます。

但し、今回のブログのメインである
自筆証書遺言(いわゆる「遺書」)の改正は
平成31年1月13日から先行的に施行されており、
遺言書保管制度の創設は令和2年7月10日から
施行されたものですので、悪しからず。

よく利用される遺言の形式は?

「遺言」というと、
皆さんはどんなものを想像しますか?

封書に「遺書」と書かれ、
封書の中に遺言者の手書きで
「あの財産は誰に、この財産は誰に相続させる。」
というようなことが書かれているものを
思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

上記のようなものは、
民法に規定されている遺言の形式の一つ、
「自筆証書遺言」というものです。

遺言の形式には、
自筆証書遺言の他にも、
公正証書遺言や秘密証書遺言という
普通方式によるものの他、
危急時における遺言等の特別方式によるものもあり、
全部で7種類あるのですが、
中でも、普通方式の自筆証書遺言と公正証書遺言が
利用頻度としては圧倒的に多い。

自筆証書遺言がよく利用されてきた理由は、
要するに遺言者自身で書けること(つまりタダ)、
小難しいことを考えなくていいことが
ほとんどであると思われ、それがメリットと言えます。

しかしその反面、
遺言書の偽造、変造、紛失の恐れがあり、
果ては誰かに書かされた(遺言者の意思に反する)とか、
誰かが遺言者になりすまして書いたとか、
書いた当時の遺言者の判断能力に疑義があるとか、
そもそも法が求める遺言の要式に沿っていない等の事情により、
後日紛争になったり、無効になったりする、
というデメリットがあります。

しかも、遺言者の死後、
その自筆証書遺言を家庭裁判所において
「検認」する手続を経なければ使えないもの「でした」。

一方、公正証書遺言は、
公証人が作成するため費用が発生する
というデメリットがあるものの、
上述の自筆証書遺言のデメリットが
ほぼ全て解消されるため、
私を含め多くの専門家がお勧めする形式です。

要するに、
自筆証書遺言と公正証書遺言のメリットとデメリットは
あべこべの関係にある、と言えます。

自筆証書遺言の要式とは?

ともあれ、昔からよく利用されていた
自筆証書遺言ですが、
かつての民法では、
(1)一言一句、全て遺言者が自書しなければならず、
(2)遺言を書いた年月日を自書しなければならず、
(3)遺言者の氏名も自書しなければならず(これは当たり前?)、
(4)押印しなければなりませんでした。

ちなみに、上記(4)の「押印」は、
別に実印である必要はなく、
「遺書」が複数枚になったとしても
契印(俗に言う「割印」)をする必要もありません。

なお、書いた遺言の内容に誤字等の誤りがあったり、
考えが変わって変更したい場合は、
その訂正・変更箇所を
特定・指示(例えば「上記1中、『なんとかの不動産』を
『かんとかの不動産』に改める」等)して、
訂正・変更した旨を付記して署名し、
その変更箇所を二重線で消して
押印(訂正印)しなければなりません。

これだけでも、自筆証書遺言とは、
随分と面倒なものです。

というか、ピンピンしている方が遺言者ならいざ知らず、
かなりのご高齢であったり、
手が震えてうまく文字を書けなくなってしまった方が、
例えばたくさんの不動産や預貯金債権を手書きで・・・
と考えただけでも、
「無理じゃない!?」
とさえ思えてきます。

というか、「無理」と考えたり、挫折してしてしまい、
書かずにお亡くなりになったケースも
少なからずあることでしょう。

自筆証書遺言の改正点

上述のような経緯により、
自筆証書遺言の方式緩和に関する規定が、
平成31年1月13日から改正施行されました。

どのように緩和されたかというと、
まあ、あまり「楽になった~!」
という程のものじゃありませんが、
不動産や預貯金債権等の情報を、
自筆証書本体に財産目録として添付するのであれば、
その目録の内容については自書を要しないこととなりました。

自書を要しないということは、
パソコンで書いても構いませんし、
パソコンでOKなんですから別の人が代筆したって構いませんし、
それすら面倒であれば
不動産なら登記事項証明書(法務局で取得できます)、
預貯金債権なら通帳の写しを
財産目録として添付すればOK、ということになります。

但し、当該目録の全てのページ(両面刷りの場合はその両面)に
それぞれ署名し、押印しなければなりません。

また、訂正・変更がある場合に求められる要式については、
従前同様、自書と押印が求められます。

さらに、作成した目録を全て変更する(差し替える)場合は
どうすればいいか?

例えば、自筆証書遺言の一部に
次のような内容があったとします。

<自筆証書本体の一部>
2 私は、私の所有する別紙二の預金債権を、二女〇〇〇〇(平成12年3月4日生)に相続させる。

上記の場合で、別紙二として
当該預金債権に係る通帳の写しを添付していたところ、
遺言者の気が変わって別の預金債権を
二女に相続させようとするならば、
自筆証書本体の余白部分に
「上記2中、『別紙二の預金債権』を
『別紙三の預金債権』に改める。」
と自書し、署名。
別紙二の預金債権の通帳の写し全面に
バッテンを書いて削除し、押印(訂正印)。
新たに別紙三の預金債権の通帳の写しを添付し、
当該別紙三の余白部分に署名押印します。

・・・結局、面倒くさいでしょう?

なお、誤解のないように強調しておくと、
方式が緩和されたのは、
別紙として自筆証書に添付する目録についてのみ
自書でなくてもよくなった、ということです。
改正によって、自筆証書「本体」と
それに添付する「目録」は分けて考えてください。

つまり、「本体」の訂正については
あくまで遺言者本人が自筆で為さなければなりませんので、
例えば自書された「本体」の用紙に
別の人が目録を代筆しちゃいけませんし、
逆に別紙目録の用紙に
遺言者が「当該不動産を〇〇に相続させる。」等と
「本体」に書くべきことを自書してもダメですよ、
ということです。

自筆証書遺言の注意点

これまで、制度の利用を阻害していた面倒な要式が見直された、
と言うことができればよかったのですが、
そういう訳でもないのが実情です。

法が求める改正後の自筆証書遺言の方式は先述のとおりですが、
法の要求をクリアしていればいい、という訳でもないと思います。

後日の紛争等を未然に予防する観点から、
偽造・変造対策を別途施しておくべきでしょう。

法より厳しい条件を自らに課す・・・
面倒になっているように感じるかもしれませんが、
必要なことでございます。

例えば、本ブログで何回も登場した「押印」。
法は、どんな印鑑を用いるか等については
何も触れていませんので、
極端な話、「本体」の署名押印に使用した印鑑と
「本体」の訂正部分に押印した印鑑が異なっていたとしても
問題無いことになります。

が、これは印影の冒用につながりかねないので、
自筆証書本体とその添付書類に用いる印鑑は
同じものを使うのが望ましいでしょう。

その観点から言えば、
何も実印である必要はありませんが、
シャチハタは捺印時の圧で印影の太さが
異なったりする可能性がありますので、
使用を避けるのが無難です。

また、法は契印も求めていませんが、
自筆証書本体と別紙を合綴し、
全ページに契印をした方が、
誰かに差し替えられたりするのを
予防する一助となるでしょう。

あと、本ブログで、
財産目録は両面刷りでもOK、というような
言い回しをしている箇所がありますが、
なるべく片面刷りにして、
その印刷面に署名押印することをお勧めします。

自筆証書遺言による遺言書の保管制度

令和2年7月10日から、
自筆証書遺言による遺言書を法務局で
保管する制度がスタートしました。

これまでの自筆証書遺言は、
先述のとおり、遺言者の死後、
その自筆証書遺言を家庭裁判所において
「検認」する手続を経なければ使えないものでした。

自筆証書遺言は、自宅等で保管することが多いため、
偽造・変造等の可能性が排除できなかったことが
要因の一つでしたが、
法務局で保管されている場合、
その恐れがほぼなくなります。

よって、当該保管制度を利用した場合は、
検認も必要無し、ということになります。

また、これまでは、
しっかりと自筆証書遺言はどこかに保管されているのに、
その存在を相続人の誰も知らず、
または見つけられず、
せっかく「それ」は存在するのに、
実質的に無意味になってしまうケースもありました。

しかし、法務局による保管制度では、
法務局の遺言書保管官から相続人等に対して
通知される制度もある(但し、遺言者が希望しなければ通知されません。)ことから、
無意味になる可能性も低くなります。

保管期間は、原則として、
遺言者の死亡の日から50年間、
遺言書に係る画像情報等の情報は150年間です。

これだけ長く保管してくれるのに、
費用は保管の申請時に一件3900円(収入印紙代)を
収めるだけで足りちゃうんですね~。

別途、遺言書の閲覧請求等の際にも
手数料がかかりますけれど、ね。

今後、自筆証書遺言をお考えの方は、
この遺言書保管制度を利用することをお勧めします。

【おまけ】相続と遺贈

最後に、改正法とは関係ないのですが、
遺言にまつわる事柄として、
「相続」と「遺贈」について
ざっくりとご説明します。

「相続」とは、前回と前々回に述べた内容により、
相続人となる方々がプラスの財産もマイナスの財産も
法定相続分で包括的に承継するものです。

それが嫌な場合は、相続人全員で遺産分割協議をして、
遺産の分割方法を決めることになります。

一方で、「遺贈」とは、
遺言によって、
誰か(相続人でも、相続人でない方でも構いません。)に対して
無償で譲渡するものです。

よく巷で「生前贈与」なる単語を用いる方がいらっしゃいますが、
そもそも「贈与」とは「贈与契約」という法律行為であり、
生きている間にしかできないものです。
よって、「贈与」と言えば「生前」であるため、
わざわざ「生前」と付ける必要はなく、
単に「贈与」で結構ですし、
「生前贈与」という文言は法律には存在しません。

他に、死亡することを停止条件として発生する契約として
「死因贈与契約」がありますが、
ここでは割愛します。

ということで、「贈与」は、生前に
贈与者(贈与する人)と受贈者(贈与を受ける人)との間で
締結することにより成立する契約であり、
「遺贈」は、遺言者の一方的な意思表示によって
受遺者(遺贈を受ける人)に財産を譲り渡すものです。

但し、遺贈には、
割合等包括的に為す「包括遺贈」と
特定の財産を対象とする「特定遺贈」があり、
「包括遺贈」の場合は
「相続」と同じと言って差し支えない扱いとなるため、
元々相続人である方が受遺者になる場合は言わずもがな、
相続人でない方が受遺者となった場合、
その方は遺産分割協議にさえ
参加しなければならなくなることがあります。

むろん、マイナスの財産(借金等)も
相続と同じ扱いですから、
譲り受けることになってしまいます。

税金についても、相続と同じ扱いですから、
相続税の問題となります。
これは、後述する特定遺贈でも同様ですが・・・。

包括受遺者が当該遺贈を受けたくないと考えた場合は、
遺贈されたことを知った日から3か月以内に
家庭裁判所に放棄の申述をする必要がありますので、
場合によっては厄介とも言えますね。

「特定遺贈」の場合は、
特定された財産のみを譲り受けるため、
相続人でない方が受遺者であれば、
遺産分割協議に参加しなければならないケースは
ありません。

が、不動産を特定受遺した場合は、
不動産取得税が課されます。

特定受遺者が当該遺贈を受けたいと考えれば
承諾する旨の意思表示を、
受けたくないと考えた場合は拒否する意思表示を
遺贈義務者(後述)に対して行う必要があります。

最後に、相続と遺贈って、
それぞれどうやってその内容を実現させるのか?
というお話を。

相続は、相続人全員か、遺言により指名等された遺言執行者が手続を行い、
遺贈は、相続人全員で行います。

あまり違いがないのでは?と思われた方、
さにあらず。

特定の不動産を「相続させる遺言」があるか、
「遺贈する遺言」があるかによって、
違いが顕著に表れます。

「相続させる遺言」の場合、
当該不動産を相続する方の単独申請で
相続登記ができる
(司法書士に依頼するのも当該相続人のみでOK)なのですが、
「遺贈する遺言」の場合、
相続人全員が遺贈を実現する義務を負った
遺贈義務者となりますので、
受遺者と遺贈義務者全員で申請
(司法書士に依頼するのも全員・・・)
しなければ登記できません。

相続人でない方が受遺者であれば、
その不動産を得ることがない相続人全員(遺贈義務者)に
わざわざ協力してもらわなければ遺贈の登記ができないため、
相続人が多い場合には、かなりの困難を伴います。

不動産登記申請をする際に
法務局に収める登録免許税額(税金)も、
「相続」の場合と比べて、
相続人でない方への「遺贈」の登記では
5倍かかります。

いろいろ述べてきましたが、
そんな訳で、遺言をする際に、
「どうしても相続人でない第三者に遺贈したい!」
という事情がなく、
相続人に財産を譲り渡したいとお考えの場合は、
「遺贈」を用いず「〇〇に相続させる。」と書く、
いわゆる「相続させる遺言」をするようにしましょう。

相続させる遺言は、
遺産分割の方法が指定されたものと解され、
普通に「相続」として処理されますので。

今回は、このへんで失礼します。

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