ブログ 町の法律日記

渡したいのに渡せない・・・

受領遅滞とは?

今回は、以前に履行遅滞をテーマにして綴った
「いきなり!履行遅滞」(令和6年10月1日更新)と
履行不能をテーマにして紹介した
「最初から無理でも有効!」(令和6年12月3日更新)の
内容にも絡む問題「受領遅滞」について、
令和2年4月1日から施行された改正民法で
何が変わったのかを述べます。

受領遅滞とは、端的に言うと
債務者が債権者に対して
ちゃんと定められたとおりの義務を
現に果たそうとしたのに
債権者がそれを受けることを拒否したり
それを受けられない状態であるがゆえに
債務者の履行が遅れてしまっている状態のことです。

約束どおり義務を履行しようとしているのですから
以前お話しした履行遅滞と同様に扱う訳には
いきませんよね。

新旧の比較

旧民法では、上記のような受領遅滞の場合には、
単に、債権者は「履行の提供があった時から遅滞の義務を負う。」(旧第413条)
とだけ定めていました。

遅滞の原因が債権者にあるんだから、
その遅滞の結果として生じた損害等については
債権者が甘んじて受け入れなさいよ、
ってなノリでしょう。

でも、いくら債権者のせいと言っても、
何でもかんでも債権者の負担とするのは
如何なものなのか?

例えば、AさんがBさんから
自転車を売ってもらうことになっていて、
令和7年3月1日、先にAさんがBさんに
売買代金を支払った。
で、令和7年4月1日に、Aさん宅において
自転車の引渡しをすることになっていた、
としましょう。

期日にBさんが当該自転車を持って行ったところ、
Aさんは上記の約束を忘れていて不在だった。
ゆえにBさんは引渡し(義務)を履行できなかった。

受領遅滞ですね。

暇じゃないのにわざわざ時間を作って
Aさん宅まで自転車を持って行ったのに不在・・・。
腹を立てたBさんは、その自転車をボッコボコにして
使い物にならない状態にしてしまった・・・。

こんな場合にも、受領遅滞だからといって
「債権者の負担」とされては、
さすがに公平性を害するというものです。

尤も、旧法でも、上記のようなケースで
Aさんが救われないと規定されていた訳ではありません。
が、旧法って結構言葉足らずなところがあるので、
条文を読んだだけでは「そう解釈する」余地が
無くもなかったのであります。

で、改正法第413条では
どうなっているかと言いますと・・・。

上記のような「特定物」の引渡しで受領遅滞が生じると、
Bさんは、4月1日に引渡そうとした時から
実際にAさんに引渡しをするまでの間、
「自己の財産に対するのと同一の注意をもって」
その自転車を保存すればOK、となっています。

こういうのを「注意義務」と言いますが、
一般的に、他人の物を預かっている場合の方が
自分の物に対してよりも「壊しちゃいけない」等と
注意を払うものですよね?
人によるかもしれませんが・・・。

他人の物を預かっている場合には
「善良な管理者の注意義務」(略して善管注意義務)という
一段高い注意義務が課せられるのですが、
それ程の注意を払う必要は無いよ、
自分の物に対するのと同等の注意義務で足りるよ、というのが
「自己の財産に対するのと同一の注意をもって」の意味です。

本件では、Bさんは故意に自転車をぶっ壊しており、
「自己の財産に対するのと同一の注意」を払ったとは
到底言えませんので、保護されません。

で、Bさんが自転車をぶっ壊さず、
「自己の財産に対するのと同一の注意をもって」保管しており、
めでたくAさんに自転車を引渡せたとしましょう。

しかし、Aさん宅が、Bさんが自動車で30分かけて
行かなければならないところにあったとしましょう。

この場合に発生する再度のガソリン代のように
「その履行の費用が増加したときは、
その増加額は、債権者の負担とする。」
と新法で規定されていますので、
Aさんが負担することになります。

まあ、常識的なお話ですね。

履行不能になっちゃった・・・

では、BさんがAさん宅に
期日に自転車を持っていかなかったり(履行遅滞)、
Aさんが引取りを拒否したり不在だったり(受領遅滞)
そんな間に、AさんとBさん双方に責任が無い事態が発生して
自転車を引渡せなくなった(履行不能になった)場合、
誰が責任を負うのか・・・?

例えば天変地異により
自転車が大破してしまったとしたら・・・?

履行遅滞中に天変地異で自転車が大破した場合、
その履行不能の損害賠償責任は
Bさんが負うことになります。

一方、受領遅滞中に天変地異で自転車が大破した場合は、
・・・お察しのとおり
その履行不能の損害賠償責任は
Aさんが負うことになります。

まあ、これも当たり前な感じがしますが・・・。

今回は、このへんで。

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