ブログ 町の法律日記

変わり続ける相続法(戦後編)

いわゆる「新民法」が適用される

前回は、戦前に亡くなった方の相続について、
(1)明治31年7月15日までに開始した相続
(2)明治31年7月16日から昭和22年5月2日までに開始した相続
上記(1)と(2)に分けて説明しました。

今回は、いわゆる戦後に施行された
民法等相続関係法令(以下、まとめて「相続法」といいます。)が適用される
相続について説明します。

なお、戦後に施行された民法は、
戦前のそれとは内容が随分と異なるため、
(3)昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までに開始した相続
(4)昭和23年1月1日から昭和37年6月30日までに開始した相続
(5)昭和37年7月1日から昭和55年12月31日までに開始した相続
(6)昭和56年1月1日から平成13年6月30日までに開始した相続
(7)平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続
(8)平成25年9月5日から現在までに開始した相続
と何度も改正がなされているものの、
まとめて「新民法」なんて言ったりします。

では、上記(3)から(8)について、
順次、相続人と相続分に関する規定を見ていきましょう。

昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までに開始した相続

日本がポツダム宣言を受諾し、
いわゆる十五年戦争が終わってから、
国内では大日本帝国憲法から内容が大きく変わった
日本国憲法が施行(変わりすぎなくらい変わっているので、「革命」と捉える学説もありますが。)
されました。

そうなると、いわゆる戦前の(1)及び(2)の時期に係る
相続法を存続させ続けるのはいかにも都合が悪い。
(たぶん)そんな訳で、
日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第73号)を
根拠として、相続人と相続分に関する規定が以下のようになりました。

相続人は誰か?

まず、被相続人の配偶者は常に相続人となりました。
この時点で、戦前の家督相続や遺産相続とは全く違いますね。
なお、配偶者が被相続人より先に死亡していた場合の
代襲相続(前回のブログ「戦前編」をご覧ください。以下、「※『戦前編』」と注釈)は適用されません。

配偶者が健在の場合に相続人となることは確定事項として、
その他、被相続人に直系卑属(※「戦前編」)がいれば
直系卑属(直系卑属間では親等の近い者が優先)が相続人となり、
被相続人に直系卑属がいない場合、
直系尊属(※「戦前編」)がいれば
直系尊属(直系尊属間では親等の近い者が優先)が相続人となり、
被相続人に直系尊属もいない場合は、
兄弟姉妹が相続人になりました。

なお、代襲相続は直系卑属のみ無制限に適用され、
直系尊属や兄弟姉妹には代襲相続は一切適用されませんでした。

相続分は?

被相続人に直系卑属も直系尊属も兄弟姉妹もおらず、
配偶者しかいない場合は、配偶者が単独相続します。

被相続人に配偶者と直系卑属がいる場合は、
配偶者の相続分は3分の1、
直系卑属の相続分は3分の2でした。

なお、直系卑属(例えば子)が複数人いる場合は、
それぞれの子の相続分は等しいのですが、
非嫡出子の相続分は嫡出子(※「戦前編」)の相続分の
2分の1になります。

例えば、被相続人に配偶者(A)と子(BとCの2人)がいる場合、
Aの相続分は3分の1、
BとCの相続分は各3分の1(要するに全員3分の1ずつ)になり、
上記でCが非嫡出子の場合、
Aの相続分は9分の3(=3分の1)で変わらず、
Bの相続分は9分の4(※3分の2の、そのまた3分の2)、
Cの相続分は9分の2(※3分の2の、3分の1)
となります。

被相続人に直系卑属がおらず、
配偶者と直系尊属が相続人の場合、
配偶者の相続分は2分の1、
直系卑属の相続分も2分の1になります。

なお、直系尊属が数人いる場合、
例えば被相続人の両親がいずれも健在であれば、
被相続人の父母の各相続分は等しくなります。
つまり、配偶者の相続分が4分の2(=2分の1)、
父の相続分が4分の1(2分の1の、そのまた2分の1)、
母の相続分も4分の1(同上)です。

被相続人に直系卑属も直系尊属もおらず、
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、
配偶者の相続分は3分の2、
兄弟姉妹の相続分は3分の1です。

兄弟姉妹が数人いる場合は、
直系卑属や直系尊属の場合と同様、
各兄弟姉妹の相続分は同等です。

なお、被相続人の兄弟姉妹が、
両親を同じくする場合(「全血の兄弟姉妹」といいます。)と
異父兄弟姉妹又は異母兄弟姉妹の場合(「半血の兄弟姉妹」といいます。)とで、
相続分に差異はありませんでした。

昭和23年1月1日から昭和37年6月30日までに開始した相続

いわゆる「新民法」と言われるゆえんのものであり、
民法第5編(昭和22年法律第222号)を根拠としています。

この時期に開始した相続で注意すべきことは、
基本的には先述の
「昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までに開始した相続」と
内容が同じであるものの、

●代襲相続が兄弟姉妹にも
無制限で認められたこと(現行の相続法とは異なります)

●半血の兄弟姉妹の相続分が全血の兄弟姉妹の相続分の2分の1
とする規定が新設された(現行の相続法にもあります)

上記2点が異なることです。

さらに、ついでですが、
その後の
昭和37年7月1日から昭和55年12月31日までに開始した相続
については、内容はこの
昭和23年1月1日から昭和37年6月30日までに開始した相続
と、相続人の特定及び相続分に変化はありません。
第1順位の相続人(配偶者は常に相続人であるため、順位の概念無し)が
「直系卑属」でなく「子」に改正されたのですが、
代襲相続が無制限に認められているため、
違いが無いのです。

昭和56年1月1日から平成13年6月30日までに開始した相続

やっと「平成」の到来ですね。

だから、という訳でも何でもありませんが、
この段階で、ほぼ現行の相続法と同じ
といえる程度のものになっています。

相続人は、
配偶者を常に相続人とし、
相続第1順位が子(代襲相続は無制限)、
第1順位の相続人がいない場合は
相続第2順位として直系尊属(代襲相続は不適用)、
第2順位の相続人がいない場合は
相続第3順位として兄弟姉妹(代襲相続は適用されるが、再代襲は認められない)
となります。

ここで、兄弟姉妹について、
「再代襲は認められない」と書きました。

「再代襲」とは、代襲の代襲です。

「は?」となりますよね。
以下、例を挙げて説明します。

被相続人に子がいたものの、
当該子が被相続人より先に亡くなっていた場合、
当該子に子(被相続人の孫)がいれば
被相続人の孫が被相続人の相続人となります。
この場合、被相続人の孫を「代襲相続人」といいます。

で、再代襲とは、
上記被相続人の孫も被相続人より先に亡くなっていた場合、
当該孫に子(被相続人の曾孫)がいれば
被相続人の曾孫が被相続人の相続人になる。
このような被相続人の曾孫の立場を「再代襲相続人」と呼ぶ訳です。

「分かったけど、そんなことって
あまり無いんじゃない?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
これが結構あるんです。

そして、子の代襲相続が無制限で認められる
(ということは再代襲も再々代襲も認められる)のに対して、
兄弟姉妹では再代襲が認められないというのは、
若干、不公平感が無くは無いです。

昭和23年1月1日から昭和37年6月30日までに開始した相続
では、兄弟姉妹の代襲相続は無制限に認められていただけに。

例えば、こんな場合。

●A(95歳)が死亡(被相続人)。
●配偶者はAより先に死亡。
●Aには子が無く、直系尊属もいない。
●Aには兄弟姉妹B(Aの2歳上)、C(90歳)、D(85歳)がいたが、
BのみAより先に死亡。
●Bには配偶者Xと子E(70歳)と子F(68歳)がいたが、
EはAより先に死亡している。
●Eには配偶者Yと子G(40歳)がいる。

この場合、Aの相続人は誰になるかというと・・・。
CとDとFの3名なんです。
Gは相続人にはなりません。

ところが、上記の例で
EがAより後に死亡していた場合、
それこそAの遺産分割等相続手続をしようとしていた矢先に
Eが亡くなってしまった、という場合はどうなるかというと・・・。

Aの相続人は、
CとD、
Fは代襲相続人、
EはAが死亡した時点で代襲相続人になっていて、
その後に死亡しているので、
YとGがAの代襲相続人Eの相続人となる。

つまり、Aの相続財産について、
CとDとFとYとG
が相続人になるのです。

ちょっとの差で、
Gは相続人になれたり、なれなかったり、
というか、Yまでもが相続の当事者になってしまうのです。

なんだか不公平じゃありません・・・?

相続が発生したら、すぐに手続をしないと面倒なことになる、
というのは、
上記のように相続関係がややこしくならないようにするために、
という理由もあるのです。

相続分が大きく変わった!

被相続人に子も直系尊属も兄弟姉妹もおらず、
配偶者しかいない場合は、配偶者が単独相続します。

被相続人に配偶者と子がいる場合は、
配偶者と子の各相続分は2分の1に
変わりました。

なお、子が複数人いる場合は、
それぞれの子の相続分は等しいのですが、
非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1です。

被相続人に子がおらず、
配偶者と直系尊属が相続人の場合、
配偶者の相続分は3分の2、
直系卑属の相続分は3分の1に変わりました。

なお、直系尊属が数人いる場合、
直系尊属の各相続分は同等です。

被相続人に直系卑属も直系尊属もおらず、
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、
配偶者の相続分は4分の3、
兄弟姉妹の相続分は4分の1に変わりました。

兄弟姉妹が数人いる場合、
各兄弟姉妹の相続分は同等です。

但し、半血の兄弟姉妹の相続分は、
全血の兄弟姉妹の2分の1です。

平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続

基本的には、
昭和56年1月1日から平成13年6月30日までに開始した相続
について適用される相続法と比べて、
誰が相続人になるかや各相続分については変わりがありません。

違うのは、嫡出子と非嫡出子の相続分です。

これまでの、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする規定は、
平成25年9月4日最高裁大法廷決定によって否定され、
嫡出子と非嫡出子の相続分は同等として扱われるようになりました。

で、上記の最高裁大法廷決定は、この
平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続
についても、さかのぼって適用されることになった・・・、
いや、なったのですが、ここからが若干中途半端。

平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続であっても、
従前の非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とすること(そういう規定でしたから)を
前提として成立させてしまっている遺産分割協議や確定した裁判手続については、
影響を受けることなく有効なものであり、
やり直しが必要になることも効力が否定されることはありません。

つまり、ありていに言うと、
すでに決めちゃった内容が、非嫡出子にとって
嫡出子より不利益を被っている内容であっても問題ない、
ということです。

混乱を避けるための措置、と言えるでしょう。

なお、上記の最高裁大法廷決定を受けて法改正がなされ、
平成25年9月5日から現在までに開始した相続
については、
バッチリ嫡出子と非嫡出子の相続分が同等となった
民法第5編(平成25年法律第94号)が根拠法として
適用されます。

次回も続くよ、相続法

前回と今回で、
相続法に規定されている
相続人の特定や相続分の変遷について
見てきました。

しかし、相続法で改正されているのは、
相続人が誰になるかや、
相続分に限ったことではありません。
近年も、様々な改正がなされています。

という訳で、次回からも、
改正された相続法について
数回にわたって綴ってまいります。

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