ブログ 町の法律日記

塩漬けの共有土地問題を解決

令和5年4月1日に改正

今回は、前回に続き、所有者不明土地関連法の
施行から2年が経過したことを受けて、
実際に所有者不明不動産問題を解消させることに
有益な法改正であったのかを検証します。

以前、「共有土地問題に一筋の光!」(令和4年8月16日更新)で紹介した
「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)。
同法は、令和5年4月1日から施行されていますが、
今回はその中の一つ、共有関係にある不動産について
共有者の1人に相続が発生しているのに遺産分割がなされず
亡共有者名義のまま放置されている場合の
見直し規定について触れます。

ちなみに、以前のブログにも書きましたが
上記のような共有制度の見直し規定は
共有者が生きているのか死んでいるのか
どこで生活しているのか等が不明なため
管理不全に陥っている共有不動産の利用を
円滑に行えるようにすることを目的としています。

施行から約2年半。
当事務所で、実際に改正法を用いて解決した事件を
例によってアレンジした内容で紹介します。

いろいろある共有状態

「共有」と言っても、その有りようは様々です。

ある不動産について、
生きているAさんとBさんが
各持分2分の1の割合で所有している場合。
典型的な共有状態ですね。

その他に、Aさんは健在だけど、Bさんは死亡している。
で、Bさんの相続人らが、Bさんの持分2分の1について
Bさんの相続人の一人bさんが相続する旨の遺産分割協議をして、
その相続登記(Bさん持分全部移転登記)をした結果、
Aさんとbさんの共有になっている状態。

Aさんは健在だけど、Bさんは死亡している。
しかし、Bさんの持分についての相続登記をしていないために
登記記録上、AさんとBさんの共有のままになっている状態。

AさんもBさんも死亡しているけど
いずれの相続登記(持分全部移転登記)もしていない状態等々。

いろいろある訳ですが、今回ご紹介するのは
次のような事案でした。

遺産共有とその他の共有(通常の共有)

ある日、当事務所に相談が1件ありました。

依頼者さんは、「ある一つの山」の一部の土地を一応管理している。
なお、見た目には「一つの山」であっても
その「一つの山」が複数の土地(単位は「筆」)の
集合体であることは、よくある話です。
ここでは、便宜上、当該「ある一つの山」のことを
「ぽんぽん山」と呼びます。
よって、対象土地は「ぽんぽん山の一部」
ということになります。

ぽんぽん山は、山地の一部を構成しており、
ぽんぽん山の一部(本件対象土地)が国道に面している。
この度、公的機関から当該土地の形状を変更する工事を
行いたい、と依頼者さんに打診があった。

対象土地の所有者を登記記録から調べると
めちゃくちゃ昔にXさんとYさんが
各持分2分の1で共有し始めたことになっており、
その後、紆余曲折を経て
Yさんの持分を依頼者さんのお父さんが購入していた。

依頼者さんのお父さんは、先日お亡くなりになった。

依頼者さんは、お父さんが有する
対象土地の持分2分の1を相続するつもりだが、
相続したところで持分2分の1の共有者に過ぎず
残り2分の1の共有者と共に対応しなければ
公共機関からの打診に応じられない状況にある。

が、その「残り2分の1の共有者」は
登記記録上、先述のXさんであり、
年代的にどう考えてもお亡くなりになっている。

依頼者さんは、Xさんと面識がある訳がなく
その相続人がどんな人たちなのか
知る由もない。

知らないフリをしようかとも思ったが
公的機関の言うことも分かるし、
この先、こんなに不安定な権利関係のまま
管理し続けるというのも嫌だ。

どうにかしてほしい・・・
というものです。

依頼者のお父さんの相続人は
依頼者さんを含めて何人かいらっしゃったものの、
みなさん、依頼者さんが相続することについて異存がなく、
すんなりと遺産分割協議が成立。

お父さんの持分について
依頼者さんが相続する旨の相続登記をしました。

が、問題は、Xさん名義の持分2分の1です。
このようなケースでは、法改正される前は、
Xさんの持分をどうするかはXさんの相続人(又はそのまた相続人等)が
遺産分割協議等をして解決すべき問題であり、
共有者と言えども依頼者さんが口を挟む問題でなく、
依頼者さんにできることと言えば
Xさんの相続人らを探し出して相続登記をするよう促すか、
Xさんの住所が職権で消除されていれば不在者財産管理人選任申立てをするか、
選択肢が限られていました。

しかも、Xさんの相続人らを特定できたとして
相続登記の費用はその方々が負担すべきものですから、
資産価値が御世辞にもあるとは言い難い本件不動産の持分のために
「そうですか、それは失礼しました」と
せっせと相続登記をやってくれる・・・なんてことは期待できない訳です。

なのに、法律では「それはXさんの相続人らの問題である」ということで
あくまで相続の問題(家事事件)として扱われ、
依頼者さんには手も足も出ない問題になってしまっていました。

これは、さすがに不都合!
という訳で、2年前に法改正がありました。

上記法改正の結果、本件のように、
ある不動産(ぽんぽん山の一部の土地)が共有関係にあり、
それが遺産共有(亡Xさんの共有持分)と
その他の共有(健在している依頼者さん等の共有持分)で構成されている場合、
遺産共有になった時(Xさんが亡くなった時。)から10年を経過していれば
その他の共有者(依頼者さん)から共有物分割請求することができる、
つまり家事事件でなく民事事件として
処理できることになりました(民法第258条の2第2項)。

本件では、まさにこの民法第258条の2第2項に基づき
共有物分割請求事件として進めることにしたのです。

遺産共有開始から10年が経過しているか

勇ましく「共有物分割請求事件として進めることにしたのです。」と
言っておきながら何ですが、
そもそもXさんが亡くなってから10年が経過していなければ
従前どおり「それはXさんの相続人らの問題である」ということになり
依頼者さんは手も足も出なくなります。

そこで、まずはXさんの戸籍関係を収集することから
始めなければなりません。
調査した結果、Xさんは余裕で10年以上前に亡くなっており
まずは第一段階をクリアしました。

司法書士の簡裁代理権の存否

次いで、これは直接問題解決に関係しませんが、
司法書士特有の懸念事項がありました。

それは、司法書士の簡裁代理権の存否です。
かつて、本ブログにおいて
「司法書士の裁判書類作成業務とは?」(令和3年11月18日更新)と
「司法書士の簡裁訴訟代理業務とは?」(令和3年11月19日更新)で触れましたが、
司法書士の場合、弁護士と異なり、訴訟代理人になれる事案が限られており、
代理人になれない事件であれば、裁判書類作成業務で依頼者さんを
サポートするより他ありません。

関係ないですけど、4年前は立て続けにブログを更新していますね・・・。

閑話休題

代理人になれる事案であれば、依頼者さんは全てを私に委任し、
相手方との交渉も、訴訟になっても代理人として出廷できるため、
依頼者さんにとっては頗る便利と言えます。
但し、本件のように不動産に関する訴訟の場合、
後述するようなハードルが別に存在したりもします。

しかし、代理人になれない事案であれば、
あくまで依頼者がいろいろ動かなければならなくなります。
上述した戸籍の収集や訴状の起案等は司法書士ができるものの
交渉や裁判所への出廷等は、依頼者さんがやるより他ないため、
司法書士が代理人になれる事件か否かは
依頼者さんにとっても大問題な訳です。

本件では、ぽんぽん山の一部の不動産が対象であり
訴額(経済的利益)は、算定した結果、たったの数千円でした。

訴額が140万円以下で、簡易裁判所管轄の民事事件であれば
司法書士は代理人になれますので、
この問題もクリアしたのであります。

共有物分割協議が不調

かくして、私は晴れて依頼者さんの代理人となり、
Xさんの死亡から10年が経過していることも分かり、
Xさんの相続人(そのまた相続人の、そのまた相続人もいましたが)
についても全員特定するに至り、
相続人全員に対して、事情の説明と
本件不動産の共有物分割協議を行いたい旨の文書を
結構な量の資料と共に発送しました。

が、全く反応を示さない相続人の方って、
いるものなんですよね~。
昨今では、いろいろな詐欺事件もあったりするので
身に覚えのない文書が到達したら
気味が悪くて無視してしまう人も多いでしょうから
無理もない話です。

反応を示さない方の住所地に赴いたり、
反応を示してくれた方にいくら事情を説明しても
「そんな土地と自分が関係ある訳が無い」の一点張りで
話が進まなかったり・・・。

いろいろと手を尽くしましたが
それが現実というものです。

かくして共有物分割協議は不調に終わりましたが、
言い方を変えると、不調に終わることが提訴の条件でもありますから、
このハードルもクリアした、とも言えます。

簡裁の必要的移送

かくして、共有物分割請求訴訟を
管轄の簡易裁判所に提起することになった訳ですが、
実質的に最後のハードルと言えるものがありました。

それは、必要的移送というものであり、
本件のように不動産を扱う民事事件を提訴した場合、
簡裁では、裁量又は相手方からの求めによって
事件を地方裁判所に移送(管轄替え)する、という規定があるのです。

どういうことかと言うと、
本件の場合、私が共有物分割請求訴訟を
訴訟代理人として簡裁に提起しても
簡裁が「あ、不動産だ。移送しよ」と判断すれば
事件は地裁に移ってしまいます。

地裁に移ると、簡裁での代理権しかない司法書士の場合、
代理権が消滅し、依頼者さんが出廷しなければならない(裁判書類作成業務に変わる)か、
弁護士さんに、代理人になってください、と依頼することになります。

なんと虚しい代理権か・・・。
私は、自虐も込めて「ホタル代理権」と呼んでいます。

しかし、たまには気骨のある(?)簡裁もあるものです。
かなり気合を入れて訴状を起案した、という事情もあると思いますが、
「これなら、ウチでも裁ける!」と思ってもらえたようで
地裁には移送されず、めでたく簡裁で扱われることになったのでした。

簡裁代理権は、永久に不滅です(合掌)。

問題解決!

訴状では、被告らが当事者であること、
本件土地の性状や利用状況、
共有物分割協議が不調であったこと等を主張し、
依頼者が被告らが各持分割合で有する資産価値に相当する金銭を
全面的に賠償することにより解決するのが至当であること等を提案。

全面的価格賠償というものですが
先述のとおり、もともと資産価値があるとは言い難い不動産であるため
賠償額の合計も些少と言えました。

結果、1回の口頭弁論期日をもって結審し、
こちらの主張が全面的に認められる内容で判決が出て、
確定しました。

その後、被告らに対して、反応があった方には指定口座に賠償金を振込み、
反応が無かった方には供託をして支払を完了させ、
本件土地について、Xさん持分に係る大量の相続登記
(相続人らが関与しない「代位登記」というもので処理。)をしたうえで
相続人全員の持分(合計2分の1)を依頼者さんに対して
判決確定日、共有物分割を原因として、
所有権移転登記をしました。

ここで、「代位登記」というものが出てきました。
「それは何?」という方も多いと思いますので、
次回、「代位」というものについて述べることにします。

ともあれ、めでたくぽんぽん山の一部の土地は
依頼者さんの単独所有となったのでした。

なんだか、すごく大変そうに思えるかもしれませんが、
確かに、えらく大変で、時間がかかるものでした。

しかし、従前であれば処理できない問題だったのに解決できたこと、
要する費用もかなり抑えることができたのも確かです。

微妙と言えば微妙ですが、
この法改正は、ある程度評価できるものかな、
というのが率直な感想です。

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