ブログ 町の法律日記

どこまで賠償請求できる?

賠償の範囲について

時の流れは早いもので、もう5月。
ついこの間、新年を迎えたと思ったら
もうゴールデンウィーク・・・。

そう、ゴールデンウィークといえば
お出かけですね~。

お出かけといえば、車ですね~。

車のニーズは、家庭を持つ身であれば
かなりあると思うんです。

親よりも、寧ろ子の方がそれを求めるというか・・・。

最近は、レンタカーの他にも
カーシェアリングなんかがあるので、
「わざわざ維持費を負担してまで
自動車なんか持たなくても・・・」
という方も多いかもしれませんが、
それでも一家に一台あると
それはそれでいいもんです。

と、ここで、車を欲しがっている知人がいるとします。
自分をA、
上記知人をBとして、
Bにうってつけの車を持っているAの知人をXとします。
なお、BとXに面識はありません。

今回は、このX、A及びBを登場人物に、
「賠償の範囲」というものについて
考えてみましょう。

これまで、本ブログで何度も
損害賠償というものに触れてきましたが、
実際、その賠償の範囲というのは
どのようにして決まるのでしょうか?

事案の検討

Bは、高級車ペラーリに目がありませんが
所有していません。所有したこともありません。
というか、自動車そのものを持っていません。

が、一度くらいペラーリを所有してみたいという
野望を抱いています。
いわゆる独身貴族であり、少しは貯金もあります。

とはいえ、今は円安ということもあって
新車には手が出せない・・・。
誰か、適当な値でペラーリを譲ってくれる人はいないか
と(Aが)相談されました。

そんな話を持ちかけられ、はたと思い当たる節が。
知人のXが、いま乗っているペラーリを売って、
そろそろ新しいペラーリに買い替えようかな
と言っていたことを思い出しました。

人間のサガと言うべきものでしょうか。
あっちもこっちもペラーリ、ペラーリと言ってのぼせ上っているので、
自分までにわかにペラーリを所有してみたくなってきた。

ちょうど、今度のゴールデンウィークに何処へ行くか、と
家族で話し合った時、子からマミー牧場に行きたいと提案があったものの
「うちには車が無いから」という理由で却下したばかり。

マミー牧場に行くことと
ペラーリがなんぼのモンなのか知るという知的好奇心を満たすために
次のような計画を立てたとさ。

まず、Xから自分がペラーリを買い取る。
買い取ったペラーリに乗って、家族でマミー牧場に行く。
ペラーリが用無しになるので、
Bにペラーリを買い取ったのとほぼ同額で売る(ちょっと色を付ける)。

これは、みんなにとってハッピーな計画なのではないか。

善は急げです。
すぐ実行に移しました。

X、快諾。
A、即払い。

しかしその後、Xの懐事情に変化があり、
新しいペラーリを買えなくなったことを理由に
Aにペラーリを約束どおり渡せない
とXが言ってきました。

Xは、Aに対してペラーリを引渡すという債務を負っていますが、
それを履行していません。
債務不履行です。

この場合の、Xが負うべき賠償の範囲とは?

通常の損害

賠償の範囲を考える時、
通常損害と特別損害を考える必要があるのですが、
債務不履行の通常損害について規定した民法第416条第1項は、
令和2年4月1日の民法改正前後で変わりありません。

(民法民法第416条第1項)
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、
これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることを
その目的とする。

この「通常生ずべき損害」というのは、
いわゆる差額説というものがあり、
履行される前とされた後の利益の差が
通常損害だ、ということになります。

但し、「通常」と評価するための基準として、
その契約の内容や当事者の属性、取引上の社会通念等が
考慮されることになります。

本件はXとAとの売買契約ですから、
売買代金相当の利益や
車が無い場合のマミー牧場までのレンタカー代等、
ペラーリが手に入れば当然得られたであろう利益が
賠償の範囲となるでしょう。

しかし、Aが目論んでいたような
Bへのちょっと色を付けての転売利益はどうなのか?

通常損害とは考えにくいものと言えそうです。

特別の損害

特別損害を規定している民法第416条第2項は、
令和2年4月1日の民法改正により次のように変わりました。

(旧民法第416条第2項)
特別の事情によって生じた損害であっても、
当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、
債権者は、その賠償を請求することができる。

(新民法第416条第2項)
特別の事情によって生じた損害であっても、
当事者がその事情を予見すべきであったときは、
債権者は、その賠償を請求することができる。

・・・何が違うの?と思われる方も多いかもしれません。
変わったのは、各2行目のところですね。

これ、争いになってしまった時には
結構影響が出る改正かもしれません。

改正前の「予見し、又は予見することができた」というのは、
「事実」が要件になっているんですね。
予見していたか、それができたという具体的な事実を
立証する必要があったんです。

それが、「予見すべきであった」という
抽象的な評価(概念)、即ち規範的要件に変わっています。

規範的要件というのは、本条でなくても
「過失」とか「正当な理由」なんていう表現で
よく条文上現れます。

信義誠実の原則とか権利濫用なんていうのも
抽象的なので、まさに規範的でございます。

本件では、Xが、Aの目論見、即ち
Bにちょっと色を付けてペラーリを転売して
利益を得ようと思っていたのに
それができなくなったことにより発生した損害を
契約の内容や当事者の属性(転売ヤーじゃない等)、
取引の社会通念上「予見すべきであった」とは
言えないと思うんですよね。

よって、AはXに対して
特別の損害を賠償するよう求めることができない、
賠償の範囲外、ということになるでしょう。

まあ、別にAは非難される程
悪いことを考えていた訳じゃありませんけれど、ね・・・。

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